なんて無茶を


落下するのは二回目です。
もっとも、前回はここまでの高さではありませんでしたが。

ヴァンの放った譜術…というより、あれは譜歌でしょうか。
とにかく、直撃は避けたものの、杖の飛行機関すれすれの場所に当たってしまい。
当然のように、バランスを崩して落下中です。

これは、ちょっと…助からないかもしれないですね。

凄まじい気圧が全身にかかり、意識が朦朧としてきました。
遥か下方には、赤紫の瘴気の海。
アクゼリュスの断片と思わしきものが浮いているのが確認できます。
…あの白いドームみたいのは、わかりませんけれど。

意識を完全に手放す直前に、手首をつかまれました。
突然落下が止まり、右手に全体重がかかります。痛いっ!
全身をぶらりとさせたまま、上を仰ぎ見ます。

「あ、…アッシュ…!」
「動くんじゃねえ!…おい、こいつの操作方法を教えろ…!」

アッシュは片手で私を掴み、片手で私の杖を掴んでぶら下がっていました。
あ、あんな不安定なもので二人ぶんの体重を支えてるんですか…!?
なんて無茶をするんでしょう。
肩が外れるどころか、腕の筋肉が壊れたって不思議じゃありません…!

「ユノ!!」
「え…ぁ、は、はい。操作方法、ですね…!」

柄にもなく取り乱してしまいました。
前述の通り、あれは私の音素震動と連動しているものなので、
アッシュが操作することはほぼ不可能です。
つまり、私があれに触れられれば、…なんとかなるのですが。

「私が、貴方を経由して音素を振動させます。
 一度下に下りて…それからなら、多分二人で脱出できると思います」
「俺を経由?そんなことができるのか」
「理論上では、いけます」

実際やったことはないので、現在では机上の空論に過ぎませんが。
出来得る限りアッシュの振動数を把握して。
誤差を少なくして、少しずつ少しずつ降下していきます。

比較的沈みきっていない場所に降り立つには、相当の時間を要しました。
周囲の瘴気と相まって体調は最悪です。
頭痛の吐き気のコンボはやばいですね。本気で死にそうです…

「アクゼリュスは、あの屑が消滅させた」

呼吸を整えたアッシュが、苦々しい表情で言いました。
予想の範囲内です。ヴァンが唆かしたであろうことも、予想通りです。

「俺はヴァンを止める。
 そのためには、今はお前の協力が必要なんだ」

珍しく殊勝な態度で、まっすぐに見られると、なんか…照れます。
散々ひどい扱いをされてきたものの、なんだかんだでいい上司ですよね。
そう言ってもらえるのは部下冥利に尽きるというもので、

「さっさと俺を運べ。屑が」

前言撤回。
口の利き方を徹底的に叩き直してやりたいものです。

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