ざっくりと、無残に


殆ど、無意識だったと言って良いでしょう。

地震が少し弱まった瞬間には、私はもう上空にいました。
現在進行形での、この地震。

震源地は間違いなく、アクゼリュス。

やっぱり終わってなんか、いなかったのです。
下っ端の私が知らなかっただけで、きっと何かがまだ動いていたのです。
私には関係ないことかもしれません。
正直に言うと、特別興味があるわけでもありません。

だけど、今アクゼリュスに向かう私は、観客気分でもないのです。

ディストが改造したこの杖は、音機関です。
大本の構造はアニスのトクナガと大差なく、所有者の音素震動に反応して
飛行機関を操作するものなので、多少の体力を消耗します。

ケセドニアとアクゼリュスの間にはかなりの距離がありますので、
全てをこの杖で飛行するとなると、比例してかなりの体力を消耗しますが。

関係ありません。全速力で飛ばします。

全速力で飛ばして、辿り着いた先に、あったものは。

"なかったもの"は。

息を呑む、とか。そんな生易しい状況ではありませんでした。
呼吸どころか、心臓まで止まるかと思いました。
異常事態、とか。甘く見すぎていました。

ざっくりと、無残に切り取られた世界。
その深淵には赤紫の瘴気が渦巻いていて、濛々と湧き上がってきていて。
底を無くした海の水は、轟々と音を立てて深淵に堕ちています。

アクゼリュスが、…無くなっている。

私の頭を支配したのは、純粋な、驚愕でした。
びっくりした。あまりにも単純な、それだけの感情でした。
それが正常が異常かは分かりかねますが、
とりあえず、今目の前で広がるこれは、確実に異常でしょう。

…ヴァン、でしょうか。

浮遊したまま暫く途方にくれていると、前方から甲高い声が聞こえました。
鳥です。巨大な。

その鳥に、姿勢を低くして乗っているのは。
ついさっき思い浮かべ、呟いた名前の本人でありました。

「ユノ!何故お前がここにいる!」

先刻の旅人にも劣らない怒号でした。思わずたじろいでしまいます。
「わ、私の台詞ですよ!ヴァン謡将!」
負けじと反論した直後、ヴァンを乗せた鳥が私のすぐ横を通過します。
ぎゃっ、と間抜けにも程がある悲鳴がでました。

やはり、これはヴァンの仕業で間違いないようですね。
しかし彼を責める理由は私にありませんし、適当に弁解でもして――…

「チッ…おい、ユノ!」

…おかしいですね。この状況で第三者の声を聴くなんて。
恐る恐る声の方向を見ると、二羽目の鳥に片腕を掴まれた、
ちょっと間抜けな体制の臨時上司の姿がありました。
怒りと焦燥で眉を吊り上げながら、彼はこう続けます。

「この鳥を殺せ!今すぐ俺を助けやがれ!!」

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