殺されます


あーあーあー!
聞ーこーえーなーいー!

場所は変わらず、ザオ遺跡。
シンクの言った通りに壁や天井が崩れ、地形が若干変わっています。
若干です。
私がいなくても多分帰れることと思います。
私がいなくても全く問題はないと思われます。
思われるんです。

「随分寒そうですねえ、大丈夫ですか?」

大丈夫じゃありません。ものすごく寒いです。
目の前ではルーク、ガイ、ティア、ナタリアによる戦闘。
背後には殿のアニス、隣にイオン。
私の隣に、ジェイド。
最悪です。

「ルークに、アッシュの声が届いたんですよ」

嫌味の嵐から一変した、他に聞こえない声量の呟き。
恐らく、こちらが本題なのでしょうね。
以前ディストから聞いた気もしますし、大方の説明はできますが、
今ここで彼に喋るのは自殺行為です。
殺されます。アッシュやシンクに。
…ヴァンに。

「へえ。凄いですね」

いつも通り平坦な声を返し、どうでもいいですけど、と続けます。
ジェイドは暫く疑わしげにこちらを見つめていましたが、
戦闘メンバーの疲労に気付いたのか、ナタリア姫に代わって戦闘に加わります。
助かりました。
私、あの男は嫌いです。

「ユノ、でしたわね。貴女」

歩く速度を落とし、私に並んだナタリア姫。
並ぶとかなり身長が高いですね、彼女。なんとなく屈辱です。
蒼の瞳はやや吊り上がり、少なくとも好意を孕んだ目線ではありません。
いえ、当たり前なんですけど。

「現在の状況、分かっていますか?貴女も相当疲れているのでしょう」
「……ええ、まあ、それなりに」
「どちらへの返事ですの」

むっとした態度で言われました。
凄いですね。身長も高く、大人っぽくはあるのに超可愛いです。
……いえいえ、屈辱だなんて思ってませんよ。
興味ありません。本当です。

「疲れてるし、状況も分かってます」

厄介払い、そして捨て駒の意味もあるんでしょうね。
導師誘拐に加えて、親善大使の任務妨害までしているんです。
私でも、上へ報告する手土産くらいにはなるかもしれませんしね。
…どうでもいいことですが。

彼らはそこまで陰湿なことはしないでしょう。
それに、報告なんかする時間があるとも思えません。

前方で完全にムキになって魔物を斬り倒すルークを見て、そう思いました。

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