忘れてました


ダアト式封咒。
どことなく懐かしい言葉です。

この遺跡にはセフィロトという大地を支える柱が…以下省略。
ごめんなさい。実は話聞いてなかったんです。

とりあえず、世界にとって大事なものがここに封印されていて、
その封印は導師にしか解けなくて、それを解くためイオンくんが誘拐された。
これだけ理解できてれば十分だと思います。

十分だと言ってください。

解呪するイオンくんのすぐ傍で監視するラルゴとアッシュ。
それに背を向け、周囲を窺っているシンク。
私は壁に寄りかかって休憩中です。珍しく労働続きで疲れました。

座り込もうかと息をひとつついた、直後。
遺跡のどこかから凄まじい音が聞こえました。
地鳴りと共に、遠くの岩が崩れる音がして、目の前を砂が舞います。
「…誰か来てるみたいですね」
独り言です。
誰か、なんて言っても。誰が来たのかは分かりきっていますけれど。

いくらも時間が経たないうちに、案の定というべきでしょうか。
つい先日会ったばかりの一行が目の前に現れました。

「シンク、ラルゴ!イオン様を返してっ!」

アニスが背中からトクナガを外しながら、駆け寄ってきます。
一瞬で巨大化したそれに飛び乗り、シンクに殴りかかるアニス。
正直癪ですけど、一応上司なので守らないわけにはいかないんですよね。

瞬間的に生み出した氷の壁が、トクナガの拳を受け止めます。
チッ、ととても少女から出るとは思えない舌打ちが聞こえました。

「ユノ、邪魔しないでよっ!」
「しますよ。仕事ですから」
「あーもー仕事仕事って!つっまんない女だよ、ほんとにっ!」

アニスが目標を変え、私に向かって突っ込んできます。
トクナガの巨体越しにルークの剣を受け止めるラルゴや、
ガイに殴りかかるシンクの姿を確認しました。
アッシュはどうやら傍観に徹するようですね。賢明です。
ルークを殺されたらたまりませんからね。

トクナガの一撃は重く、私が受け止められるものではありません。
なので回避に集中します。避けられないほど、速くはないですから。

「ユノの馬鹿!さすがにこれはアニスちゃんだって怒るんだからね!」
「え、プラークマゴッツの件は怒ってなかったんですか」
「あんなんでいちいち怒ってたらアンタと付き合ってないっつの!」

…そういうことですかー…。
慣れてたってことですか。私のビジネスライクな付き合いに。
凄いですね。この子。
でも、手加減なんかしません。
一気に決めます。骨は拾います。面倒ですけれど。
杖の先に音素を集中させ、アニスに向けて、さあ発射数秒前。

だけど、まあ、予想つきますよね。

私、忘れてました。これ、1vs1の真剣勝負じゃないんですよね。
視界の端で、倒れ伏したシンクとラルゴを確認しました。
視界の中央に、戦意に燃えた目を複数、確認しました。

ちょ、待って。
待ってって言ってるじゃないっすかあああぁっ!!

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