どうしようもなく


機嫌悪くしてるのがアホ臭くなってきました。
船室備え付けの暖炉に、面倒なので譜術を使って火を入れます。

後ろで立っていたイオンくんを手招きし、暖炉に近い椅子に座らせました。
体は濡れ、顔色も良くはありませんが、毅然とした態度は変わりません。
どこまでも強い人です。羨ましくはありませんが。

「寒かったら言ってくださいね」
「…はい。ありがとう、ユノちゃん」

監視役の私に、まだちゃん付けするんですか。
彼らからすれば裏切り者ってレッテルまで貼れると思うのですけれど、
少なくともイオンくんとティアは気にしていない様子ですね。

意味がわかりません。
彼らのように人格のできた人間がこうも盲目的に信頼できるほど、
私という人間は価値があるとは思えないのですけれど。

いっそどうしたら嫌われるのかに興味が出そうです。
ありえませんけど。

「ユノちゃん、その…アッシュの、ことですが」

随分と語尾を濁しながら言うイオンくんに首を傾げます。

「多分イオンくんの予想通りだと思いますよ」
「では、僕たちと一緒にいたルークは、」
「…白々しいですよ」

思っていたよりも嫌そうな声が出ました。
傷ついた面立ちのイオンくんに、自嘲の意味を込めて溜息をつきます。
駄目ですね。やっぱり完全には割り切れていないみたいです。
ヴァンのせいです、全部。
あいつのせいでまた思い出してしまったんです。
あーあーあー、もう面倒臭い、面倒臭すぎます、私!

「ごめんなさい」

苦々しく謝罪すると、イオンくんは沈んだ顔のままで
いえ、と首を振りました。
尋常じゃなく気まずい空気が流れ、陸艦と炎の音だけが室内に響きます。

もうどうしようもなくなった頃、ごんごんとノックの音がしました。

「リーランド奏長、そろそろ――…」

ヒィ、と悲鳴をあげる伝令係の兵士。先刻の兵士と同一人物ですね。
どうやら私たちの死んだ魚に似た目に驚いたようです。

ところで、ザオ遺跡ってオールドラントのどのへんですか?

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