護っている


私が何故おまえを殺さないか、分かるか。

場所を移すこともなく、ヴァンは私にそう言いました。
人通りが多すぎて、向かい合った私ですら聴き取りづらい声です。
それに長引かせるつもりもないのでしょう。
私の言葉を尊重してのことか否かは、分かりませんけれど。

さて。

ヴァンが何故私を殺さないか、でしたっけ。
確かに不思議ではあるんです。
導師イオンの件、フォミクリーの件、アッシュとルークの件。
私はあまりにも、多くの物事を知りすぎている。
知りすぎていながらもヴァンへの忠誠心はほぼ皆無、
戦闘力も知力も重要視できるほど立派なものではありません。
生かす意味など、ありません。

だけど…ええ。
何故殺されないか、と言われますと。
どうしても"彼"の姿が脳裏によぎるんですよね。
私は彼に興味をもてなくて、彼は私を大嫌いだと称していましたが。

私は、確信しています。
今現在、私の命を護っているのが、誰なのか。

私が何よりも優先すべきで、護るべきで、愛するべきだったのが、誰なのか。

…確信していても、向き合うことは、…拒否します。

「それが、お前の答えなのだな」

呆れたような声音ですが、その真意は掴むことができませんでした。
私の答え。それを、ヴァンは理解したのでしょうか。
そんな訳ないですよね。
だって私ですら、理解できていないんですから。

「ヴァン謡将」

頭が痛い。これ以上考えるのはやめておきましょう。
失礼します。そう続けようとした時、
ヴァンが何かに勘付いたように目を光らせました。

そして何も言わずに外套を翻して、路地の奥へ足早に消えていきます。

……えっと。
よく、わかんないんですけれど。
私はもう帰っていいって、そういうことなんですよね?

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