楽園偏愛録 | ナノ


▼ 06

「貴方の生き方、嫌いじゃあないと思う。もし私がハンググライダーを持っていなければ、貴方との戦いに応じるしかなかった……。そしたら銃を借りていたし、貴方に向けて撃っていた。まぁ、死んでいたと思うけど……私、銃の才能なんかないし」
「いや、今まで話してきた感じだと、君は絶対に自分が勝てると思っていなければ銃は向けないだろう」
「……」
「だが、銃は必要だ。持った方がいい。レースを追っていると言っていたが、そのハンググライダーで飛ぶのか? 飛んでいる間はいいが、地上に降りたらいったいなにで自分を守る」
「なにって……なんかてきとーに……その……」
「……。『同行者』がいるのか」
「! いや、一人だよ。空の旅にお供がいると思う?」
「……居るな? そうじゃないと安心して旅なんかできないはずだ。君には仲間がいて、そいつが君を守ってくれている。だから君は武器を持たなくてもいいということか」
「……仲間じゃあないよ」
「認めたか。だが、君は銃を持たないといったが……、そいつが危険な目に合っていたらどうするんだ? 誰がそいつを守るんだ? 君しかいないんじゃあないか?」

 ……ディエゴが……? 危険な目に……?
 ないだろ……絶対……。でも……。

「君には銃が必要だ。でないと後悔するぞ」
「……私に……?」
「ああ、君は戦う人間だ。銃を持て。戦うという意思を持て」
「……嫌だ。あれは……」

 路地裏の、瑣末な、……悪夢。

「あれは人間の使うものじゃあないよ……。私、牙や爪のほうが好きだ、恐竜みたいな……自分自身で戦うほうが好きだ……。あんなの持っていたら不幸になる。貴方はここに迷い込んだ人間すべてに果たし合いを挑んでいるみたいだけど、そんなことしていたらやっぱりいつか死ぬし……」
「果たし合いを遂げること。自分が生き残っても、死んでも……同じ。それがオレの望みだ」
「……そんな風な命の使い方は好きじゃあないよ……」
「だが、君はいつか必ず銃を必要とする。持っておけ。生き残ることを最優先とするなら、尚更だ。ホルスターは君にはいらない。どこかに隠し持て。果たし合いの道具じゃあなくてもいい、切り札にしろ」
「……嫌だ……」
「……君の『同行者』……、君にとってどれだけの価値がある」
「…………価値……?」
「銃を持つと不幸になると言ったな。自分が不幸になってでも、そいつを守りたいと思うかどうか、聞いている」
「…………」

 いや。
 守りたいかどうか、じゃあないよ。
 私なんかが守れるような人じゃあない。
 だから……。どれだけ守りたいか、ではなく、どれだけ失いたくないか、なんだ……。
 ……。
 まぁ、死なれたら困るもんな……。

「……、あの、リンゴォ、取引を……」
「取引はいらない。オレの二丁目の銃、くれてやる」
「あ、……ありがとう」

 すんなり、だ……。ディエゴと違って話が通る……。
 ……あの人もな……。どうして、秘密にするんだ……そんなに……大事なことなのか。
 どうして私に、賞金の半分をくれるなんて言ったの。私にマンハッタンでもう一度会うことに、なんの意味があるの。
 貴方の意図が欲しい。

「君がいつかその銃で誰かを殺して、生長したら、また来るといい」
「嫌な誘い文句……。絶対こないし。貴方と殺し合いなんてしたくないし。……あのさ、聞いてもいいかな」
「なんだ」
「隠していること聞き出すのって、どうしたらいいかな。貴方、スタンドのこととかなにもかも話してくれたけど、私の同行者、そういうんじゃあないんだ。なんていうか……。私は知りたいのに」
「……そうだな。オレが名乗ったとき、君もまたフルネームで名乗ってくれたな」
「? うん」
「そういうことじゃあないか。君がその同行者に隠していることは?」
「…………」
「まず君が洗いざらい吐くべきだな」

 ……まじでか……。
 ディエゴに……か。
 まぁ、それがフェアってことなんだろうな……。ディエゴが私に隠していること……。それと同じだけの価値のあるものを、私は彼にくれてやらないといけないってことか……。それが平等、対等、か。
 リンゴォはプラムのほかに、牛の肉を1キロほど分けてくれた、どこに牛を飼っているんだろうか、一頭だけ木に吊るされているのを見たけど……。つがいはいないのか? 牛舎はどこに? 謎の多い場所だな。

 そして、だ。
 もう一個やんなくちゃいけないことがあるんだった。
 彼がスタンド使いで、ここに住んでいる……ということは……、だ。

「リンゴォ、貴方文通相手がいるの?」
「……なんだ?」
「そこのハト、手紙を飛ばす用でしょう? 側にカプセルも置いてある。一人きりの淋しい生活かと思ったら、遠くにだけど友達はいるんだね。どんな人?」
「……」
「……友達の顔も思い出せないの?」
「……いや、これは緊急用だ。なにかあったときのための……」
「そっか」

 ……政府への、か……。
 ……その相手が大統領かどうか……聞くのは危険か……。
 ともかく、彼が政府に雇われているらしいことはわかった。
 ディエゴにこの果樹園は迂回させよう。彼が遺体を所持しているとバレたら、狙われることになる。

「まぁ、世話になったね。いろいろこっちの意思を突き通してしまってごめんなさい」
「構わない。また訪ねてきてもいいが、そのときは心に覚悟を」
「いやだから果たし合いとか絶対しないから……。まぁ、その、なんだ? 貴方を生長させてくれるいい人が、ここに迷い込んでくるといいね」
「……ああ、そう願う」

 リンゴォが用意してくれた梯子をつかって、彼の家の屋根に登る。思ったんだけど、私のハンググライダーを彼が壊しでもすれば、私は彼と果たし合いをしていたと思う……。それをしなかったのは、彼の温情ってところか。
 ああ、飛び立つ前の、この心はいつも、わくわくしてる。
 空への期待は、変わらないな。
 リンゴォに別れを告げて、私は飛んだ。

 ディエゴを見つけよう。
 それが彼との約束だ。



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