楽園偏愛録 | ナノ


▼ 01

 ディエゴやジャイロ・ジョニィの所持している『遺体』……。それを狙っているのが『何で』あるのか、ではなく、『誰』であるのか。それを知る必要がある。明確に敵を知るのだ。そうすることで、生き残れる確立を上げる。
 私もディエゴも、だいたいの予想はついている。部位にして二つ、個数にして三つの遺体がすでに彼らによって発見されている。彼らが見つけた、ということは、それら遺体はSBRレースのコース上にあった、ということだ。ディエゴは自分の遺体が、次の遺体の場所を知らせてくれていると言っていた。ひとつみつければ、もうひとつ……。遺体はきっとどんどん見つかっていくだろう。
 遺体を欲しがっている『誰か』がいる。
 そして、この大陸横断レースが開催された。
 この二つの事実は……たぶん繋がっている。遺体が欲しい誰かは、たぶん遺体の在り処をあらかじめ知っていたのではないだろうか、例えばすでにひとつ遺体を持っていて、その遺体がほかの遺体の場所を示していたり……。だけどその遺体を手に入れるのは容易なことじゃあない。きっと『資格』が必要で、『試練』がある。だからその遺体の欲しい誰かは、遺体のある場所に沿ってレースのコースを設定することで、参加者たちに遺体を集めさせようとしている……。そしてその集めた遺体を、自分の部下たちに回収させる……。
 だったらこの遺体を欲しがるその誰かは……このレースの関係者で間違いない。
 プロモーターのスティール氏。
 彼を資金面で支える多くの企業、会社も……怪しむべきだ。このレースの主催者側にかかわっていて、なおかつコースを設定できるほどの権力、つまりスティール氏に対する強制力を持った組織、あるいは個人……。
 ……まあ組織……だろうな。そんで怪しいのはやっぱ『政府』……どこの国っていうとアメリカの……。
 アメリカ政府。
 そのうちの権力を持った誰か。あるいはその誰かに対して強制力を持った誰か……こうして考えていくとキリがないが。
 そいつが遺体を欲しがっている。

 あー、つまり、政府関係者を洗えばいいのか?
 そんなかんじだな。

 レースはっていうと、なんだか大波乱の予感って新聞記事に書かれそうな展開になっていた。全くマークされていなかったホット・パンツという選手が、山を越えるステージの単独一位……。しかも二位以降のジョニィ達とのタイム差も圧倒的だ。よっぽど山が得意なのか……。それとも今までその実力を隠していたのか。なんらかの目的があって……。その目的とは? 彼も遺体を狙う刺客のひとり?
 ややこしい。
 たぶんだけど遺体を狙ってるのはアメリカ政府だけじゃあないだろう。ディエゴは遺体の存在を知ってすぐにジャイロ達から奪い取ると決めたし、そのジャイロ達も遺体を集めるつもりのようだ。
 そんなに遺体ってのは魅力的か? ああ、きっと金ですら表せない価値がそこにはあるんだろう……。だが金で示せない価値なんか、私には信じられない。だから私にとって遺体は、無価値だ。ただディエゴ以外の選手が遺体を得ることでレースを有利に進めようってんなら、それは許さない。このレース、優勝するのはディエゴじゃあないといけないからな。私の金のために。
 ま、とりあえず遺体を狙っている連中のなかで最も警戒すべきなのがアメリカ政府ってことで間違いないだろう。ジャイロ達はテロリストに遺体を手に入れた『タイミング』まで知られていたっぽいから、レースを監視している気球も、敵側だと思った方がいい。……そう思うといきなりこのレースが薄暗いもんに見えてきたな……。華やかなレースの裏でなにやってんだ……。ま……よくあることなのかもしれないけど……。

 キャノン・シティで宿をとった私は、そこまで考えをまとめると、先ほど購入した、ディエゴ曰く『君が着てもそれなりにマトモに見える』服に着替えて、外に出た。ハンググライダーは部屋に置いておく。メモ帳と数日間ぶんの新聞、ペンを持って、あとそれっぽく見えるかなと思って伊達眼鏡も。どーだこれで記者に見えるか? 少なくとも今までの私はほとんどレース参加者と変わらないサバイバル対応装備だったからな。かたちを整えるだけでケッコー別人に見えるだろ。髪形も変えたし。なにより久しぶりのシャワーがきもちよかった。宿、たまにはいいね。

「ええ、解っていますここが政府関係者の建物だって……。だからお伺いしてるんですよ。私どもが記事にしたいのはね、レースの内容それ自体ではなく……。ええ、このレースを企画したスティール氏、そしてそれを全面的に支持したアメリカ大統領について! 勿論レースの内容も実に興味深い。大衆が知りたいのもそれでしょうよ。だがそんなものは大手の新聞社が飽きるくらいに細かく記事を書いている! 他の新聞社もです。そちらの需要は充分足りているでしょう。現実的な話をすると……。そうなったら他の話題を記事にしてみたほうが売れると思いません? レースの内容にも勿論触れますが、メインはスティール氏がこのレースを開くことになったいきさつ、そしてそれに関わると大統領が決意した過程! それにしたいんです。話題はレースから離れてはいないでしょう。正直我々の会社は人員も費用もギリギリでやってましてね、ちょっとでも他の社の新聞と差をつけないとやってられないんですよ、ええ」

 我ながら……『わが社』がなんの社なのか説明しろって言われたらどうするつもりなのかね。また辺境の地の記者ですって言うか? だけどあんまり身分の低い者だと思われても、政府関係者相手にはマズいしなぁ……。

「ああ、ご理解いただけるなんて! ありがとうございます! ええ、もちろん! 大統領にお会いできなくても、こちらはお話が聞ければ充分ですので! 感謝します! 新聞記事最後に貴方への謝辞を添えたいと思います!」

 はっはっは事情を知っている人とのアポゲット! 明日酒場で会えるらしい。んー偽でいいから名刺を作っていこうか……。キト・フライメアという辺境の村から来ている記者の存在が係員を通じて政府に伝わっていたらまずいし、適当に偽名使おう。今度はちょっと大手だけど最近経営が微妙な新聞社って設定で……。
 こういうの楽しいなぁ。やっぱ一人って言うのは気楽だ。ディエゴと一緒に旅をするのは、悪くは無いけど……。彼は私に隠していることがあるみたいだし……。それを言うつもりはない……。そう考えると、息が詰まるまではいかないけど、気まずいもんはあるし……。
 ……どうしたら、彼の秘密を暴けるんだろうな……。

 

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