楽園偏愛録 | ナノ


▼ 05

 スタンド能力。

 ジャイロが言っていたのを聞いた、と彼は言った。
 私にとってはどう定義したらいいのかわからないが……、ディエゴの恐竜化するのもその能力の一種なのだという。本当ならありえないことが起こる……、簡単にいうとそういうことだ。ありえないこと、理解のできないこと。

「君はそういうの嫌いそうだ」
「嫌いっていうか……。だってどうしてそうなっているのか、原理の説明できないもの……人は簡単に受け入れられないよ。ただ今回は貴方が恐竜になっているのを間近で見たわけだし、そういうことがあるんだってのは信じるしかないだろう……。最初に貴方を恐竜化させて操っていたフェルディなんとかって博士はテロリストで、ジャイロとジョニィを狙っていた」
「正確にはジョニィの所持していた『遺体』を、だな」
「そう、その『遺体』ってのがさらにわからない!」
「ああ……君はキリスト教か?」
「いや、無宗教っていうか、まぁ特になにも信じてないよ」
「だろうな……。で、オカルトの類にも目をくれていそうではないし……。そうだな、スタンド能力の存在は信じるんだろう?」
「うん」

 ディエゴがハンググライダーを背負いながら、私の横を歩いているっていうのは妙な光景だなぁと思う。私がハンググライダーを横抱きにでもして馬に乗ればそれで済む話なのだが、森のなかを進むのがつらくなるし、私が彼のせいで手を傷めたという主張を彼は信じている。いや別に嘘をついたわけじゃあないが、このくらいの痛みどうにでもなる。言い出したのが自分だけに、もういいとは言いづらいし……。だってこのレースに勝たなくちゃあいけないのは私ではなくディエゴのほうで、身体をいたわるべきなのは彼のほうなのに。

「この『遺体』そのものがスタンドだと思え。使用者がまだいないってだけだ。俺はこの左眼のおかげでこのスタンド能力を得た……」
「『遺体』そのものも……『本当ならありえないことが起こる』っていう代物……」
「飲み込めたか」
「な、なんとか……。ねぇ、貴方の能力ってのは元々ジャイロ達を追っていた博士のものだったんでしょ? そういうものなの? 死んだ人間のスタンド能力は継承される?」
「違うと思うな。フェルディナントの恐竜化っていうのは、あくまで他者に対してしか働かないものだった。だから俺を恐竜化させて、リーダーに指定した。俺は村人たちを恐竜化させながら、しかし自分の意識もあったから君にメッセージを送ることができたわけだ。で、だ、俺は自分自身を恐竜化させることができる。フェルディナントの恐竜化には『相手に傷をつける』という行為が必要だったらしいが……俺はそうでもない。試したところ触れただけで我が愛馬も恐竜化させることができた。つまり俺とフェルディナントの能力は、恐竜化という点では同じだが、厳密には違うものだと言える。さらに言うと俺がこの能力を得た瞬間っていうのはフェルディナントが死んだときではなく、この遺体に触れたときだ」
「直前まで恐竜化していたあなたは、それを才能としてその遺体に引き出され、スタンド能力に目覚めた……。この仕組みでいいのかな」
「君が納得できればいいだろう」
「貴方はどうでもいいってかんじだね。テロリストがジャイロとジョニィを追っていたんなら、その追っ手は勿論フェルディナントだけじゃあなかったはずだ。その前にもいろいろな奴に襲われて……だから彼らの口から『テロリスト』という言葉が出てきたんだろうね」
「中継地点でのホテルの謎の爆発のことか?」
「うん。あれはジャイロかジョニィを狙ったものだったんだろう。それで彼らが狙っているのは遺体……。貴方もこれからそういった危険な連中に狙われることになるんじゃあないのか?」

 ふむ、とディエゴは頷く。

「だとすると君もだな」
「私は飛んで逃げるから平気だ」
「そうか? 飛べなくなるような能力者がやってくるかも」
「…………」
「心配しなくても、ジョニィ・ジャイロの他に俺も遺体を所持している、という事実は俺と君、ジョニィとジャイロしか知らない。フェルディナントは死んだし、この情報はテロリストたちには伝わらない。ジョニィとジャイロは君を襲ったりはしないだろう」
「……ジョニィとジャイロはその遺体を集めてるんだよね」
「そのように見えたな」
「わかってて貴方は遺体を我が物にした……。貴方はジョニィとジャイロから遺体を奪う意志がある」
「ああ。遺体のことはよくわからないしどういった価値があるのかも、知らない。だが連中には渡したくない。このDioが奪い取る」
「我儘だなぁ……」
「そうか?」

 言ったって聞かないだろうな……。危険だとか、そういう認識、きちんとあるんだろうか? 無茶はしないと思うけど……。わけのわからない遺体、価値も知れない遺体……。集めることに意味がないとは思わない。もし遺体が特別な力を持っているなら、このレースを制するためにも、ジョニィとジャイロに渡してはおけない……。ああ、言っていることはわかる。知ってしまっておとなしくしているタイプでは絶対にないだろうし……。

「わかった。ある程度の協力はするよ」
「期待していないが」
「遺体について貴方がどう行動しようが、文句を言わないってことだよ?」
「……それは助かるかもな」
「あともう一つ。貴方は遺体の詳細について興味がないようだし私もそれは大して重要だと思わない。けれどジャイロとジョニィにテロリストを仕向けている人物が確実に存在する……。そいつが誰なのかを突き止めたい」
「……具体的にはなにをする気だ?」
「キャノン・シティで情報収集をするってくらいかな……。レースの状況しだいでは、貴方はそこに立ち寄っている暇がないかもしれないでしょう」
「ふうん……。俺には恐竜の感覚があるし、君の行動は無駄になるかもしれないけどな」
「自分の命を狙ってくるかもしれない『敵』を知っておきたい、というのは私個人の我儘だ。これは貴方への協力でもなんでもない。私が勝手にやるだけ。自分のために」
「そうだな。君がきちんと俺に追いついてくるのなら、文句はない」
「追いつく」
「当たり前だろう」

 あ。

 ディエゴ、貴方最近、ちょっとだけわかりやすい表情をするようになったよね。
 笑ってんだろ、もう、暗くたって解る。

「恐竜になれてご機嫌?」
「そうかもな」

 



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