SS部屋 | ナノ
静帝能力持ちパロW

2011/01/14 08:04

「…学校は今日休みか」
 寝るとまたあの夢を見てしまいそうで、起きることに決めた。
 寝間着のまま猫背になりながらパソコンへと向かう。ネットビジネスの仕事が溜まっていて、することは山ほどあった。朝食にお湯を注ぐだけの即席コーンポタージュを作り、息を吹き掛け冷ましながら飲む。
 空っぽの胃に暖かいスープなが流れ込み、お腹の中で熱い何かがぐるぐる回っている。ほう、と息を吐き、暖かくなった掌を頬に当てる。
「静雄さんの掌もあったかいんだよなあ…」
 暖かな温もりを思い出すと、恥ずかしくなって足をバタバタと動かす。
──静雄さんのことを考えると幸せな気分になる。人はどうせいつかは死ぬんだ。今から怯えてたら勿体ない。
 幸せを全身で感じてやろうと思えば、携帯が震える。小さな画面には静雄の名が表記されており、口元を緩める。
「僕のテレパシー感じたのかな」
 くすくすと笑い、携帯をぎゅっと握りしめる。一つ言っておくが、帝人にテレパシーなんて能力はない。
「静雄さんも僕のこと考えてくれたのかな」
 メールを開けば、そこには今日会えるかという内容のメール。帝人は直ぐさま返事を返した。答えは勿論肯定だ。
 待ち合わせの一時間前までパソコンをし、身支度をすると外へと出た。空は曇っていて、夜は雨が降りそうだ。折り畳み傘を鞄に入れ、帝人は待ち合わせ場所へと向かう。時計を見れば待ち合わせ時間より30分早い。
──まあいいか、待つのは得意だ。
 いつもの公園のベンチに腰掛け、バーテン服の青年が現れるのを待つ。
 だが、待っても待っても、静雄が現れない。とうとう待ち合わせ時間から一時間が過ぎてしまい、空から雨がぽつぽつと落ちてくる。
 帝人は雨宿りの出来る場所まで移動すると、溜息を吐いた。
──静雄さん遅いなぁ…、お仕事が長引いちゃってるのかなあ。
 メールを送ったり電話をかけたりとしているものの、静雄から連絡が返ってくることはない。
──もしかして、事故に遭ったりとかじゃないよね…?
 嫌な考えが溢れてくる。帝人がその考えを消そうと頭を振ったところで背後から声がかけられる。
「や、帝人君」
「…臨也さん」
 待ち人ではないことを知り、帝人は無意識に溜息を吐いた。
 臨也はどこかボロボロで、まるで静雄と戦争をした時のようだ。
「その格好、どうかしたんですか?」
「ああ、さっきまでシズちゃんと闘りあってたんだ。あいつさ、一時間以上も追いかけ回してくるんだよ。もう人間じゃないよね」
「一時間も…?」
 帝人との待ち合わせ時間の少し前に臨也を見つけ、ずっと追っていたということか。
 静雄は臨也のことになると見境がつかなくなるときがある。帝人は僕より臨也さんを優先したんだ、と珍しく不機嫌になる。
「あれ、帝人君どこいくの?」
「帰ります」
「せっかく会えたのに?ご飯なんでも奢ってあげるから昼ご飯一緒に食べようよ」
「…高級ステーキならいいですよ」
「いいよ。なんでも食べさせてあげる」
 ちょうど今やけ食いがしたい気分だった。静雄に買ってもらった食材を食い荒らそうと思っていたのだが、ただで高級な食べ物が食べられるならそっちの方がいい。
 昔、自分のことを殺した相手だということも帝人の頭の中から抜け落ちてしまった。普段冷静な帝人からは有り得ないことだ。
「行こうか」
 手を差し出されるが、帝人はそれを無視して歩き出す。臨也の「店の場所わかるの?」という言葉に脚を止めることになるのだが。


「おっおいしい!」
「そりゃね。シズちゃんに食べさせてもらってるのと金額的に全然違うし」
「どうして静雄さんと僕の食事について知っているのかというのは愚問ですから流しますが」
「ははっ、まあいいから、食べて食べて。おかわりしていいからね」
「あ、じゃあこの一番高いのお願いします」
「帝人君ってば容赦ないねえ」
 くっくっと笑いながら分厚い肉にナイフを突き刺す。ワインを飲む臨也を横目で見ながら帝人は水を飲む。
 満腹になると思考というのは落ち着いてくるらしい。部屋は何故か個室で、窓は空気を入れ換えるだけのモノしかない。壁には高価そうな絵画がかけてある。
「…ご馳走様でした。じゃあ僕はこれで」
「タダ食い?帝人君は酷いね」
「僕、お金持ってませんよ」
「ああ、いいよ。俺からのお願い聞いてくれたら全部チャラにしてあげる」
 お願い、という単語がいかにも怪しい。帝人は怪訝な表情をしながらも「なんですか」と目を向ける。
「二十歳になるまでに死んでくれない?」
「…、といいますと?」
「俺がどうして二十歳以内に死なないと能力の継続ができないってわかってると思う?答えは簡単、一度経験したからさ。今世で能力の継続が出来なくても、来世で二十歳以内に君の近くで死ねば能力が再度継続できる。まあ、もし俺が偶然君の近くで死ぬまで待たなくちゃいけないんだけどさ。君は今まで二十歳以内に死んでるってことはそれで能力の継続ができてるってことでしょ?なのに二十歳以上生きられたら堪らない。もう俺は記憶を次の俺に継げられないじゃないか」
「…安心していいですよ。僕はそう遠くない未来、静雄さんに殺されるそうです」
「…え、そうなの?それでも帝人君はシズちゃんの元にいるんだ」
「……だって、独りは寂しいじゃないですか」
 独りになるのと一人でいるのでは全然意味が違う。それは今までの全ての人生で嫌というほどに教えられた。
「僕は静雄さんが好きです。愛しています。きっと、静雄さんも僕のことを好いてくれている。それで、いいじゃないですか」
「ふーん…」
 臨也が請求書を持って立ち上がったので、帝人も部屋を出る。
「つまらないね」
「え?」
「弱くなった君はつまらないよ、じゃあね」
 臨也は素知らぬ顔で去って行く。帝人はぎゅうと自分の手を握りしめた。
──今の僕が僕らしくないだなんてわかってる。わかってるよ、そんなの。
 家に帰れば、静雄が扉の前に立っていた。遅刻のことを謝るためだろうか、と少しだけ足を速める。静雄は帝人の姿を確認すると、口元を緩めた。
「帝人」
「なんですか、静雄さん」
「あのよ、もう昼飯食ったか?」
「…食べましたよ」
「そ、そうか。じゃあいい」
 去って行こうとする静雄に、遅刻のことは謝らないのかとむっとする。それとも、食べ物で釣ればいいと思ったのか。
 帝人は静雄の背中に向かって呟く。聴力のいい静雄になら聞こえるはずだ。
「昼ご飯、臨也さんと食べました」
「…あ?」
 静雄は臨也という単語に過剰反応し、踵を返して帝人の肩を掴む。
「なんで、」
「静雄さんこそ、僕に謝ることはないんですか?あと、家の前で待つのやめてください。気持ち悪いです」
「みか、」
 緩んだ手を弾き、家に入るとすぐに鍵を締める。だが、静雄は簡単に諦めない。
「帝人、急にどうした?」
「…静雄さんは、僕より臨也さんを優先するんでしょう?恋人より好敵手を潰す方がいいんですよね」
「そんなこと、」
「ありますよ。自分の行動を見直してみればいいんじゃないですか?」
 厭味を入れつつ言い、扉から離れる。自分でもわかっている。これは嫉妬だ。初めてできた恋人に対する、それはそれは子供染みた。
 暫く無言が続き、もう諦めたのかと思って溜息を吐けば、鍵を締めた扉が無理矢理こじ開けられるのが見えた。
「わっかんねえ!!」
「へっ?」
「俺は、お前と付き合ってから、お前よりあの糞ノミ蟲野郎を優先したことはねえ!!」
「だって、今日…」
「ああ?」
 至近距離で睨まれれば、いくら思い人であっても怖い。帝人がぶるりと震えれば、静雄は近づけた顔を離す。
「今日、僕より臨也さんを優先したじゃないですか…」
「?」
 静雄はきょとんと首を傾げる。
「だから!今日、僕との約束より!臨也さんを優先したじゃないですかッ」
「俺、今日ノミ蟲と会ってねえぞ」
「へ?」
「あと、約束ってなんだ」
「朝メールで…」
「俺、今日携帯忘れたから触ってない」
「じゃあっ、これは誰なんですかッ」
 携帯の受信メールを見せると、静雄は顎に手を置き首を傾げる。
「やっぱり俺じゃない。…まさか、あのノミ蟲野郎…!」
 思い当たる可能性は、臨也が全部仕組んだということだ。帝人は脚から力が抜ける。静雄は慌ててその身体を支えた。
「帝人、大丈夫か?」
「…なんだ、静雄さんは僕より臨也さんを優先した訳じゃないんだ」
 ほう、と息を吐くと、静雄は帝人の頬に親指をあて、むにむにとマシュマロのように柔らかな頬を押す。
「ヤキモチ妬いたのか?」
「ぁう…」
「…帝人は可愛いな」
 違うと何度も否定するが、「そんな赤い顔して言われて信じられるかよ」と紅潮した頬をぺろりと舐められる。
「…なんか、本当にマシュマロみたいだな」
「…食べられませんよ」
 ちゅうと吸われたり舌で舐められたりする。帝人も同じようにすれば、静雄はくっくっと声を殺して笑う。
「このまま食べていいか?」
「ダメです…」
「明日休みだろ」
「土曜日も学校はあるんですよ」
「じゃあ休め」
「無茶苦茶です」
 別に一日休んだってどうということではない。知識は十分あるし、普段の態度がいいから成績に響くことはない。
 だが、静雄に抱かれるということが恥ずかしい。ぐちゃぐちゃに感じた顔を見られるのだ。
「ホテルか俺の家、どっちがいい?」
「やることが前提ですか」
「此処で今すぐ抱かないことを褒めて欲しいくらいなんだぞ」
「もう…」
 結局ホテルに行くことになった。自動精算の主にそういうことを目的として数時間滞在する用のホテル。
 幸運なことに、誰にも遭遇しなかった。あの平和島静雄が少年とラブホテルにいたなどと噂になれば、それが帝人だということは顔見知りならすぐにばれるだろう。




字数の関係でここまで


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コメント
2011/01/14 22:56 奈倉
久コメッ!

帝人君の嫉妬がカワイイですよ(>_<)
獣シズちゃんと小動物帝人君のコンビっていいですよねー。
続きが気になります
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2011/01/14 20:27 雪桜
初めまして!!
静帝文章の今後が気になります!
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