SS部屋 | ナノ
静帝能力持ちパロV

2011/01/13 07:22

 服装を整えると、着替えを鞄に詰め、静雄の背中に覆いかぶさる。足腰に力が入らなく、自分で歩くことができない。
「帝人、体勢辛くねえか?」
「…へーきです」
 歩く度に脚がぶらぶらと揺れる。先程の行為について文句を言いたかったが、怠くて言えなかった。喋るくらいなら眠りたい。
 気付けば、身体はさっぱりとしていて、布団に寝かされていた。隣には静雄が眠っている。どうやらあのまま静雄の背中で眠ってしまったらしい。静雄に洗ってもらったのかと思うと今更ながらに恥ずかしくなる。
──そりゃ、王だった時は召使さんに洗ってもらってたけど!
 今思えばとても恥ずかしいことのように思えて、枕に顔を押し付けた。
──…ん、静雄さんの匂い。って、僕は何を考えてるんだ!
 思考回路を吹き飛ばそうと頭を何度も横に振る。すると、隣から笑い声が聞こえた。
「何やってんだ?」
「静雄さん…」
 暖かい身体を擦り寄せられ、帝人も硬い胸板に顔を埋める。甘えるような仕草に、静雄は愛しそうに帝人の髪を撫でた。


「いやはや、まさか君とシズちゃんが付き合うことになるなんてねえ」
 自称無敵の情報屋にはお見通しらしい。帝人は大して気にする様子もなく、首を縦に振った。
「もし、俺が君を殺したらシズちゃんはショック死してくれるかなあ」
「また相討ちになって二人共死ぬんじゃないですか?」
「へえ、シズちゃんが死んでもいいんだ」
「来世で静雄さんを捜せばいいですから」
 帝人がそう言えば、臨也はきょとんとした表情をする。帝人の返答が意外だったらしい。
「まさか帝人君がそんなこと言うなんてね。長く生きすぎて命の大切さを忘れてしまったんじゃない?それに、また来世でシズちゃんに会えるかはわからない」
「それでも捜しますよ。来世もそのまた来世も」
「ふーん…」
 臨也はつまらなそうな表情をするが、帝人は無視して臨也に背を向けた。
「早く何処かへ行った方がいいですよ。そろそろ静雄さんとの待ち合わせ時間なので」
 あれから早朝に一度自宅へと戻り、学校へと向かった。それから夕食は昨日約束した焼鳥を奢って貰うのだ。そのために公園で静雄を待っているところで臨也と会った。臨也は帝人がいるとわかっていてやって来たのだろうが。
 臨也は忠告を聞き、ひらりとコートを風に靡かせ去って行った。その後、すぐに静雄は現れる。
「帝人、待ったか?」
「はい、待ちました」
「わ、わりぃ…」
「冗談ですよ。さ、行きましょう」
 本気で謝る静雄に、冗談が通じないなあと苦笑しながら腕を引いた。
 昨日のちょっとした仕返しに意地悪したくなったのだ。まさかここまで真に受けるとは思わなかった。
「次からはもっと早く来るからな?」
「お仕事だったんだからしょうがないですよ。僕は気にしてません。その代わり、目一杯僕を甘やかしてください」
「…っああ」
 静雄の服の袖を掴んでいた指を外され、代わりに静雄の指が絡む。所謂恋人繋ぎに、帝人は顔を真っ赤にする。
「静雄さん、これはさすがに恥ずかしいです…」
「じゃあどうがいい?」
 パッと離された掌に少し寂しいと思いながらも、静雄の腕に自らのそれを絡ませる。ぴと、と静雄の二の腕辺りに頭を当てれば、静雄の筋肉が強張るのがわかった。静雄は何度かその小さな頭を撫でると、歩き出す。
「…前はあそこの焼鳥屋に行ったから、今日はあっちに行くか」
 エスコートしようと頑張る静雄に、帝人はちろりと見上げる。自然と上目使いになり、静雄はびくっと肩を跳ねさせる。
「静雄さん?」
「い、いや、なんでもない。入るぞ」
「はいっ」
 店内に入れば肉の香ばしい匂いがする。自然と溢れるよだれに、ごくりと唾を飲む。
「今日は俺の奢りだから好きなの頼め」
「今日はって、静雄さん大体奢ってくれるじゃないですか」
「たまに自分で払うって融通聞かないだろ」
「だって、申し訳ないですし」
「これからは付き合うんだから、遠慮するな」
 ごほんと一つ咳ばらいをし、メニューを帝人に渡す。
「味噌だれやきとりと…んー」
「とにかく目についたの頼め。半分ずつしよう。食べられなかったら俺が食ってやるから」
「そうですか?じゃあありがたく」
 今まで食べたことがないので怖くて頼めなかったモノも注文する。帝人が無邪気に静雄に微笑みかければ、静雄はわかりやすく頬を染め、口元に笑みを浮かべる。
「…ふふっ」
「どうした?」
「いえ、まさか静雄さんとこんな関係になるとは昔の僕じゃ考えられませんでしたから」
「…そうか」
「ずっと面倒見のいい静雄さんを親…いえ、お兄さんみたいに思ってましたから」
「今は?」
「…言わせるんですか、それ」
「言ってくれ」
「……す、き…です」
 耳まで真っ赤にすると、静雄はそっとそこに口づけを落とす。「店の中ではやめてください」と睨むが、静雄にはあまり効かなかったらしい。ただ「わりぃ」と呟いた。


「あー、お腹いっぱい」
「そりゃよかった。いっぱい食ってもうちょっと肉付きよくしろよ」
「僕、これでも食べてると思うんですけどね」
「ばかやろう」
 どこがだよと帝人の脇腹を触る。擽られて帝人は笑いながら駆け出す。だが、静雄にすぐに捕まった。人気のない公園で男と少年がじゃれあってる姿は周りから見てどうなのだろうか。
「楽しそうだな」
「はい、楽しいです」
「…今日も泊まるか?」
 帝人は返事の代わりに首を縦に小さく振った。静雄は満足げに笑うと、帝人の華奢な身体を抱き上げる。
「わわわっ、静雄さん!僕歩けます!」
「そうか」
「だからッ、降ろしてくださうわあっ」
 世界がぐるりと反転する。俵抱きにされ、視界がバーテン服の黒に覆われた。
「今日はしないから安心しろ」
「もう…信用ないですよ…」
 何かがきっかけでムラムラしたと言い兼ねない。帝人は(出来るだけ静雄さんを煽らないよう心がけよう)と決めた。
 だが、その努力も虚しく、結局は貪られてしまうのだが。


「おっ、なんだ帝人。奥手君にも遂に春がきたのか!」
「は?」
 風邪から復活した正臣は、登校初日からハイテンションで帝人に絡む。いっそのこと、ずっと風邪をひいていた方が静かでいいんじゃないかと思うほど。
 正臣はニヤニヤとしながら、帝人の襟首を突く。
「ここ、キスマークついてんぞ」
「ひぇ?!」
 バッと掌で隠す帝人に、正臣は人差し指でつんつんと帝人の頬を押す。
「で、何処の女の子を虜にしちゃったんだ?それともお前が虜になったのか?つか、そのキスマークの量スゲェな」
 ケラケラと笑う正臣に、帝人は静雄のことを恨む。
──キスマークなんか、恥ずかしいからやめてほしいのに…!
 襟首を隠すようにシャツをあげる。チャイムが鳴り、正臣はヤベ、と自分の教室へと走り去って行った。先生の廊下を走るなという怒声が聞こえ、帝人は苦笑を浮かべた。


「静雄さん、これ、どういうことですか?」
「ああ、帝人の肌は白いからすぐついたぞ」
「そういうんじゃなくて!どうしてキスマークなんか…!」
「俺のだっていう所有印だ。消えたらまたつけてやるからな」
「だ…だからってこんな目立つとこにしないでください!友達にからかわれたじゃないですかっ」
「そいつの名前言え、俺が仕返してきてやる」
「そういう意味じゃないです!」
 言葉の通じない静雄に、(静雄さんってこういう人だっけ)と首を傾げる。おそらく、今までの静雄は遠慮していたのだろう。思い人が自分のものになったという喜びに、少しネジが飛んでしまっているのかもしれない。
「もう…これからはもっと目立たないところにお願いします」
「太股は?」
「…恥ずかしいですが、普段は見えないのでそれでいいです」
 静雄は早速と帝人の脚に手をかけたので、帝人も容赦なく静雄の頭を叩いた。
 静雄はちぇっと呟き、帝人の小型の冷蔵庫を漁る。あまり中には入っておらず、存在している意味を成しているのかわからない。
 静雄はポーチからチョコレートを出すと、一つだけ入れておいた。今持っている食料といえばそれくらいしかない。帝人の小腹が空いたら勝手に食べるだろ、と特には考えない。
「帝人、買い出し行くぞ」
「あ、僕今月もう終わりですし、金銭的にピンチなのでいいです」
「あ?じゃあ何食うんだよ」
「もやしとか…」
「ッばか、俺が買ってやるから行くぞ」
「で、でも…」
「もっと俺に甘えろ」
「甘えさせてもらってますよ」
「もっと、だ」
 立ち上がろうとしない帝人の手を引き、無理矢理立ち上がらせる。帝人は不満そうだったが、静雄は気付かないフリをして古びた玄関の扉を開けた。
 静雄が帰った後、帝人は食材で埋め尽くされた冷蔵庫を見る。一人じゃ食べきれないと困るので、日にちの持つものを中心に買った。肉はラップに包んでさらに狭い冷凍庫にいれる。小型冷蔵庫に冷凍庫もついてると聞いて購入したのだが、肉の塊を二、三個入れたら埋まってしまった。
 冷蔵庫の端にちょこんと存在するチョコレートに、こんなもの買ったっけ?と思いながらもつまむことにした。


 その日の晩、甘えるなと言わんばかりに自分が死ぬ夢を見た。今の帝人より少し成長した姿。一番最悪なのは、その帝人を殺す相手というのが静雄だったということ。
「……本当、冗談きついって…」
 目尻が熱くなるのを感じ、腕で目を覆う。
──…そうだ、別に見る夢が全て予知夢という訳じゃない。ただの夢かもしれないじゃないか。
 だが、そんな帝人の期待を壊すように、次の日もそのまた次の日も同じ夢を見た。
 帝人はどこか諦めたような表情でぽつりと呟く。
「…別に、静雄さんにならいいかな」
 いつも夢では帝人が死ぬ前、静雄は泣いている。帝人は涙の伝うその頬に指を這わせ、そして帝人の夢は途切れる。帝人の予知夢にとって、それは死を表すのだ。
「すぐに死ぬって訳じゃないんだから」
 自分に言い聞かせるよう呟く。でも、流れる涙は止まらなかった。臨也の前では虚勢を張ったものの、本当は死ぬのがとても怖い。
 死んで気付けば赤ん坊として何処かで生まれており、時の経過で死ぬ前に知り合いだった人達は皆死んでいるのだ。辛くないはずがない。


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