SS部屋 | ナノ
静帝で静雄さんが子供になっちゃったよな話

2010/12/22 19:20

「…今日も会えなかった」
 帝人は携帯を見、深い溜息を吐いた。
 恋人に会わなくなって今日で一週間だ。携帯に電話しても留守番に掛かるだけ、メールを送っても返事が返ってくることはない。
 自分が何かをしたかと考えるが、会えなくなる前日は笑顔で別れたはずだ。
 電話を掛けるが、留守番に繋がるだけだった。帝人は再度溜息を吐き、布団に篭った。夕飯を食べる気にはなれなかった。
 もしかして静雄は何か事件に巻き込まれて連絡を取れないのかもしれない。そう考えれば食欲は湧かなかった。
「…静雄さん」
 自分にだけに向けられる優しげな笑みを思い出し、顔を枕に埋めた。

「おい、帝人。お前本当に大丈夫か?」
「え?」
 気づけば正臣は帝人の顔を覗き込んでいた。帝人は声を掛けられやっとそれに気付いた。
「えっ、あ、何?」
「最近考え事ばっかしてんじゃよー。まあ前までも静雄さんのことばっか考えてたみたいだけど」
「違ッ、違うから!」
「前の帝人はなんかにやけてたけど、今はすっげー暗い表情してんぞ。悩み事か?」
「いや…大丈夫」
「…言いたくないならいいけどよ」
 正臣は気を利かせて違う話題を投げかける。自慢げに武勇伝を話す親友に眉を下げて笑う。正臣は帝人の眉間に人差し指を突き立て、とんと押した。
「?」
「その腑抜け顔どうにかしろよなあ。よしっ、今からナンパ行くぞ!ついて来い!」
「ごめん、僕今から用があるから」
「ノリ悪いぞー、眉間皺寄せ君」
「変なあだ名つけるのやめて」
 むっとしながら言えば、正臣は「よし、いつもの帝人だ」とニカッと屈託のない笑みを浮かべた。
 普段は敢えて空気を読んでいないと公言している友人に変な気を使わせてしまったとうなだれる。
 このままじゃだめだ、と思い、静雄を捜すために正臣と別れ街を歩く。
 目立つ金髪とサングラスは一向に見つからない。もしかして、もう池袋にいないかもしれない。
 さ迷い、路地裏に入ったのが悪かった。帝人の目の前には複数の不良がいる。かつあげ目的だろう、財布を出せと言われる。
 こういうことがあれば、静雄はいつも駆け付けてくれた。まるでヒーローのように。
 胸倉に掴まれ、足が宙に浮く。だが、静雄が助けにきてくれることはなかった。
 帝人は観念して鞄から財布と出そうとしたところで、目の前を電柱が通りすぎて行った。それは数人の不良を巻き込む。
 まさか、とそちらへと目を向ける。だが、そこに静雄の姿はなかった。代わりに小学生位の小さな少年が立っていた。
 彼に気を取られていれば、その間に不良は逃げ出していた。静雄だと思ったのだろう。
 帝人は慌てて息を荒げる少年に近寄る。
「あの、助けてくれてありがとう」
「…別に」
 少年は右腕を押さえている。もしかして折れているかもしれない、眉間に皺を寄せていた。
 この子は静雄ではない。電柱なんてものを投げれば身体が堪えられないだろう。
「大丈夫?そうだ、病院に…」
 現在地を特定しようと辺りを見回しているうちに少年は逃げてしまった。小さな影はすぐに人混みに紛れた。
「…ぁ」
 溜息を吐き、自宅へ脚を向ける。
 これ以上歩き回ってもいいことはなさそうだ。不良に絡まれ自分より遥かに小さな少年に助けられた。
 苦笑を浮かべ、すっかり暗くなった空を見上げる。
――…そういえば、さっきの子、静雄さんに少し似てたなあ。
 音信不通の恋人を思い出し、帝人は顔を俯かせた。

 帝人は昨日と同じ様に街をさ迷い歩く。静雄の姿を捜しながら、昨日の少年も捜す。
 自分のせいで怪我をさせてしまったかも知れないのだ。キョロキョロとしていると、背後から不意に声を掛けられる。
「帝人君?」
「えっ」
 振り返れば、静雄の弟である幽が立っていた。声を上げそうになりそうになるのを寸前で我慢する。
 眼鏡を掛け帽子を被って変装しているとはいえ、幽は有名人なのだ。ミーハーなファンも多い。
「あの…、ぁっ」
 幽に隠れてよく見えなかったが、幽の背後に昨日の少年がいることに気づく。
 右腕にはギブスに包帯が巻かれており、昨日の怪我であることがわかる。
「あの、こんちには」
「…」
 さっと幽の後ろに隠れる少年に、帝人は苦笑を浮かべる。
「幽さんはこの子の知り合いなんですか?」
「…そういえば帝人君、最近兄貴に会ってないよね?」
「…はい。連絡も取れなくて」
「この子、兄貴」
「…え?」
 幽に持ち上げられ、少年は暴れた。よく見ようと顔を近付ければ、少年は顔を背ける。
「…この子が静雄さん?」
「うん。でもこの歳までの記憶しかないらしいんだけど」
「幽、降ろせ!」
 暴れる静雄に、幽は床に降ろした。
「静雄さん…?」
「…なんで俺の名前知ってんだよ」
 声もいつものそれより少年特有の高さを帯びているが口調はそのままだ。
 静雄は再度幽の後ろに隠れる。恥ずかしがり屋なのかと思ったが、幽は否定するかのように手を振った。
「兄貴、どうしたの?帝人君の前だから照れてるの?」
「何言ってんですか…」
「お前、みかどっていうのか?」
「あ、はい。僕は竜ヶ峰帝人っていいます」
 微笑み掛ければ静雄はぶわっと顔を赤くした。え?と思う頃には静雄は逃げ出していた。何故逃げるんだと呆然とする。幽は「あーあ」と呟き、帝人の手を引いて静雄の後を追う。
 有名人と手を繋ぐという行為に胸をドキドキとさせる。静雄に知られたら怒られるだろう。
「兄貴はやっぱり兄貴だね。どんな姿でも帝人君を好きみたい」
「えええ…っ」
 なんだか照れ臭くなる。だが、それなら静雄はどうして逃げるのだろう。
 公園のブランコに座り込む静雄を見つけ、手を離す。また逃げられても困るので幽は静雄の後ろから向かうともう一つの出入口に向かった。帝人はゆっくりと静雄に近付く。
 触れる前に気付かれ、静雄は後ろに走り出そうとしたが、背後から近付いていた幽に捕まった。
「幽、手前…ッ」
「静雄さん、どうして僕から逃げるんですか?」
「…だって、俺は大切にしてえもん傷付けちまうんだ」
 きょとん、と帝人は目を丸くする。ということは静雄は帝人を大切にしたい相手としているということだ。
 以前、静雄に昔好きになったパン屋のお姉さんを守ろうとして傷付けてしまったことがあるということを聞いたことがある。今思えばそれは静雄なりの忠告だったのかもしれないが、帝人が何も言わずに頭を撫でれば抱きしめてきた。
 帝人はいつもよく静雄に頭を撫でられる。静雄にそれをされれば落ち着く。だから、きっと静雄も落ち着いてくれると思ったのだ。その時、静雄はただ「ありがとう」と言った。
 帝人はその時と同じように小さくなってしまった静雄の頭を撫でる。静雄は目を見開くと、安心するように目を細めた。
「…みかど」
「はい」
「俺が大きくなったら、結婚してくれ!」
「…はい?」
 思わずひくりと口を引き攣らせる。それはきちんと意味をわかって言っているのか。いや、静雄のことだ。理解していないだろう。
「静雄さん、同性での結婚はできないんです」
「海外行ったら?」
「幽さん!」
 帝人が咎めるように幽の名を叫べば、幽は一体どうしたのかという表情をしている。
「考えたことなかったの?」
「だって、僕はまだ高校生ですし、この静雄さんもまだ小学生ですよ」
「ああ、それなら問題ない。明日には元に戻ってる筈だから」
「…そもそもなんで子供になっちゃったんですか」
 そんな、漫画やライトノベルでしか有り得ないことがどうして起こっているのか。静雄のことでいっぱいで考えなかった。
 だが、幽は「元に戻った兄貴に聞いて」と溜息を吐いた。
「俺じゃ嫌か?」
「嫌という訳じゃ…。僕には付き合ってる人がいるんです」
「誰とだ?」
「…大人になればわかりますよ」
 静雄は不満そうだったが、「牛乳飲んで早く大きくなるからな!」という宣言に苦笑する。
――…あんまり身長離されても困るんだけどな。ただでさえ僕からキスしずらいのに…って一体何を考えてるんだ、僕は。
 静雄の安否も確認でき、幽と意気込んでいる静雄に手を振り、一先ず別れる。明日になれば元に戻っていると言っていた。
 静雄より目線が高くなることはまずない。少し名残惜しいかな、と思いながらも、朝一番に会いに来てくれた恋人に頭を撫でられ、やっぱりどの静雄さんも好きだと実感するのだった。



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コメント
2011/01/11 00:16 リンネ
はじめまして。

小さいシズちゃんかわいいですよね。
普通の話も好きですが、こういう感じの話も大好きです。
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