静帝で腐男子なみーくんU
2010/11/28 20:49
「紅茶でいいですか?」
「お、おう」
やかんで湯を沸かす帝人に、どこに本を隠しているんだろう、とキョロキョロしてみる。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
帝人はそう言い、押し入れを開けた。下の段に同人誌がずらりと並んでいる。
「おお…」
本当にあれは竜ヶ峰のだったんだな、と今更頭が現実的になる。
「なんだか恥ずかしいですね。他の人に言うのは静雄さんが初めてなんです」
「そうなのか」
そう言わわれば、少し嬉しくなってしまうのが悲しい。
「取り敢えず、特に希望がなければ僕が選びますけど」
「ああ、頼む」
「はい」
嬉しそうに笑う帝人に、胸が高鳴ってしまうのは仕方ないと思う。
帝人は慣れた手つきで薄めの本をとると、封筒に入れる。
「あ、原作も入れておきますね。漫画ですから読みやすいと思います」
「あ…ああ」
見るからには普通の少年なのに、と小さく溜息を吐く。湯が沸いたらしく、帝人は立ち上がり簡易な台所へと向かった。
渡された封筒の中身を見て、ひくりと口を引き攣らせる。表紙には男同士が抱き合っている絵。
だが、引く訳にもいかない。自分もこういう嗜好の持ち主なのだから。
──…竜ヶ峰って、ほっせいしちっこいから、同じ男には見えねえんだよなあ。
今にも折れそうな華奢な身体を見つめると、ごくりと唾を飲み込む。帝人がくるりと振り返ると、沸き上がった情動を誤魔化すように咳をした。
マグカップに入った紅茶を渡され、静雄は礼を言う。あと、心の中で謝っておいた。
「さっき買ってきたやつ、読まないのか?」
「読んでいいんですか?静雄さんがいるし、遠慮してたんですけど…」
「構わねえよ。俺もこれ読んでみるし」
「はいっ、よければ感想聞かせてください」
「お、おう」
流し読みをするつもりだったのだが、感想を求められればパラ読みをすることができない。本を読み始めた帝人に、静雄も意を決して封筒から本を取り出す。
静雄の好みが見つかるようにかはわからないが、表紙のキャラクターは全て違うものだった。
静雄の目についたのは、黒髪の少年が金髪の青年の背に抱き着いているもの。
その少年の童顔さや少女のような身体の細さがどこか帝人と似通っており、静雄はそれを読むことにした。そのキャラは敬語のところといい、容姿といい、帝人と被る。静雄はその少年を帝人、金髪の青年を静雄と頭の中で置き換えて読むことにした。
──…意外に読めるな。
他のも読んでみたが、最初に読んだやつが一番しっくりときた。
最後の一冊を読み終えると、帝人がじっと静雄を見つめていた。感想を待っているのだろうか。
「…あー、これよかった」
「どちらかのキャラが気に入ったんですか?」
「この、黒い髪のやつ」
帝人に似ている少年を指差せば、帝人は意外と言わんばかりの顔をする。
「…んだよ」
「静雄さんってショタコンですか?」
「しょた…なんだそれ」
「いえ…。あ、じゃあこのキャラの他のカップリングのはどうでしょう」
よくわからないままに差し出された本を見れば、今度は金髪の青年ではなく、紅い目の黒髪の青年が写っている。
「…いやだ。さっきの金髪のやつとこいつのがいい」
「静雄さんは固定カップリング派ですか。じゃあ、これ貸しますね」
先程の金髪の青年と黒髪の少年を描かれた本を数冊渡される。さっきとは絵柄が異なっていた。
「あの、よかったらまた今度一緒に買いに行きませんか?」
「いいのか?」
静雄としては、用件がどうであれ、帝人と会える口実ができるのは嬉しい。
後先のことを考えないまま、静雄は首を縦に振った。
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