SS部屋 | ナノ
静→帝

2010/10/21 07:25

――今思えば、自分の思いをこうして口にして伝えるのは初めてだった。




「す、みません…。僕、静雄さんをそういう風に見れません。僕の感情は飽くまで憧れなんです」
「そうか…」
「本当にごめんなさい」
 そう言って頭を下げる思い人に、静雄は慌てて「気にすんな」と言う。
「自己満足みてえなもんだし、お前を困らせたかったわけじゃない」
「あの、でもこれからも普通に接してくださいね?」
「わりぃけどそりゃ無理だ。俺はもうお前をそういう目で見ることしかできない」
 暗にもう話さないと言っている。帝人は静雄が狡いと感じた。
「じゃあな」
 速足で立ち去る静雄に、帝人は止めようとしたが、言葉が見つからず伸ばした手は空を切った。
 それから、静雄と帝人は一言も話さなかった。
 決して会わない訳ではない。街で擦れ違ったとしても、静雄が一方的に知らないフリをするのだ。
 少し前なら静雄の方から帝人の元へ来ていたことだろう。
 どこか縋るように静雄の後ろ姿を見つめていると、隣で歩いていた杏里にどうしたのかと尋ねられた。

「あ、の…静雄さん!」
 一ヶ月経った頃、帝人は耐え切れずに静雄に話し掛けた。無視出来ないよう目の前で。
 静雄は悲しげに眉間に皺を寄せると、帝人の身体を押しのけ歩き出した。
「ぁ…、ッ待ってください、静雄さん!」
「…チッ、俺に話しかけんな」
「どうしてですかッ」
「あんまりごちゃごちゃ言ってると抱くぞ」
 一瞬、どういう意味かわからなかった。だが意味を理解した途端、帝人の顔が紅潮した。
 静雄は自身の顔を押さえながら、苦しげな声を出す。
「お前見てたら、色々と我慢出来ねえんだよ…」
「静雄さん…」
「だから俺には近づくな、話し掛けんな。わかったか」
 静雄の言葉は疑問形ではない。忠告だ。
 帝人が目を伏せれば、静雄は傷付いたような表情をした後、顔を背けた。そのままその方へと脚を向け、帝人の前から去っていく。
 帝人は今度は追い掛けて静雄の背中に抱き着いた。
「な…ッ、おい、竜ヶ峰!」
「抱けば…いいじゃないですか…」
「ああ?」
「…ッどんな酷いことをされたとしても、静雄さんに無視されることが1番苦しいんです!それなら、静雄さんに抱かれても…」
「…お前にそういう表情させたいわけじゃねえっつってんだろ」
 いつの間にか帝人の目尻に浮かんでいた涙をごつごつとした長い指で拭われる。
 それでも溢れてくる涙に、静雄は今度は服の袖で拭う。
「わ…わかった、もう無視とかしねえから泣くのやめろ!」
「本当ですか…?」
「…ああ」
「よかった…」
 嬉しそうに微笑む帝人に、静雄は(コイツには敵わねえ)と髪をくしゃりと掻いた。



帝人の気持ちが恋心に変わるのも時間の問題っていうね!


back * next


コメント
*
名前:

メールアドレス:

URL:

コメント:

編集・削除用パス:



表示された数字:



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -