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静⇔帝←臨友達と昔やったリレー小説

2010/10/20 07:37

「臨也さん。今日は、臨也さんにどうしても聞かなきゃいけないことがあるんです」
「え、なんだい帝人君!俺の情報はまぁそこそこの値段はするけど帝人君の頼みなら少しくらいオマケしてあげるよ!っていうか俺の情報ならいつでも帝人君にだけ教えてあげる。タダで!!」
「実は、静雄さんについてなんですけど…」
「あー…。ごっめーん帝人君。俺、これから用事あるの忘れてたよ。また今度遊びにきてくれるかな?」
「僕以上に優先させる用事があるんですか?」
「ない!嘘!嘘だからその振り上げたボールペンしまって!!」
 若干不服そうにしながらも、帝人はボールペンを机の上に置いた。
 今日は臨也の相手をしに来たのではない。これからの自分がすることにとって重要なことを聞きにきたのだ。
「単刀直入に聞きます。――――静雄さんは童貞ですか?」
「ぶふっ?!」
「うわ、汚い…」
「ちょっと待って帝人君!そんなの聞いてどうすんの?!」
「童貞なんですか?そうじゃないんですか?!」
「…」
 信じられないとばかりに目を開く臨也に帝人は再度机に置いたボールペンを持ち、その手を上に挙げる。
「…童貞に決まってんじゃん。化け物みたいな力を持ってるくせに誰よりも臆病なシズちゃんが誰かを抱けるわけない。そうだろ?」
「そうなんですか…。良かった…」
 心から安心したような笑顔を浮かべ、もうここに用はないとすぐさま立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「…なんですか?」
「なんでシズちゃんが童貞か聞いたの?」
「それは、情報提供の見返りですか?」
「うん。それで良いよ。一番良いのは帝人君が俺に体で払ってくれること…いや、じょ…冗談だよ…」
「…簡単な話ですよ。僕が、静雄さんの初めてを貰うだけです」
「………はあ?」
「それじゃ、失礼しました」
 ペコリと礼儀正しく頭を下げた帝人は臨也が呆然としている間にマンションから出ていった。


 追う兎と追われる狼。
 誰よりも臆病な狼に、積極的な兎は恋をした―――――。


 静雄の姿を捜しに60階通りをさ迷い歩く。
 バーテン服に金髪に長身、その特徴はこの人混みでも見つけやすい。だが、こんなときに限って一向に見当たらない。
――そういえばメールアドレス聞いてなかったな。次会ったら無理にでも聞こう。
 静雄がよく昼食に立ち寄るというファーストフード店に足を運ぶ。そこにも姿はなく去ろうと思ったのだが、独特的な匂いに腹が悲鳴を訴える。
 もしかして食べに来るかもしれないし、とバーガーとシェイクを頼み、入口近くのテーブルに座る。
――腹が減っては戦はできぬって言うし。
 うんうんと言い聞かせ、バーガーにかぶりついた。中からケチャップがはみ出て手に着いたのでナプキンで拭こうとすれば隣から心地よい低い声が自分の名前を呼ぶのが聞こえてきて目を向ける。
「静雄さんっ」
「竜ヶ峰、一人か?」
「はい!静雄さんは?」
「ああ、さっきまで仕事だったんだ」
 相席してもいいかと尋ねられ、勿論と中央を陣取っていたプレートを自分の方へ下げる。
――ああ、いつ見ても格好いいなあ…。
 見惚れながらも当初の目的を思い出し、五個程積み上げられたバーガーを食べる静雄へと向き合う。
「あ、の、静雄さん。今からまだお仕事ですか?」
「ん?いや、今日はオフだ」
「…ッ」
 これは、千載一遇のチャンスではないのか?気合いを入れるために手を付けていなかったシェイクを吸い込むと、喉に詰まって少し噎せた。
 げほげほと咳込めば、静雄は優しく背中を摩ってくれる。眼前にある静雄の整った顔に、胸がとくんと高鳴る。
「あの、静雄さん!もしよかったら…」




―――夢みたいだ…。
 何度も思った言葉を心の中で繰り返す。
―――信じられない。嘘だ。夢だ。夢なら覚めないでほしい。
 帝人が静雄にどこか遊びに行こうと誘ったのは1時間ほど前。
 怪しまれたり断られると思っていたのに、静雄はあっさりと了承し割引き券を持っているからと映画館に連れてきてくれた。
 映画の内容など入ってこない。
 横に座る静雄の僅かな動きに心臓が跳ねる。
 暗闇を利用して手が触れれないかと思うが今はそこまで望まない。
 焦りは禁物。折角ここまで仲良くなったのに妙な警戒心を持たれるのは困る。
 だから、今はこれで満足だ。

 穏やかな笑みを浮かべた帝人は気付かない。
 静雄の葛藤に、帝人は気付かない。
「静雄さん。今日はありがとうございました」
「いや、こっちも券が無駄になんなくてすんだし・・。遅くまで付き合わせて悪かったな」
「そんなことないです!映画、面白かったですし・・・」
 静雄さんと一緒にいれたし。
 帝人はそう言おうとしたのだが、それは顔を赤くした静雄に阻まれた。
「ま、た…!」
「え?」
「また、誘っても…良いか?」
 その言葉が耳に入ると同時に、口は反射的に言葉を繋ぐ。
「も、勿論です!」
 浮かれながら帝人は家に帰っていた。
「(やっぱり静雄さんは優しいな…)」
 お土産だと貰ったケーキを眺め、軽やかな足取りで階段をあがる。
「おかえり、帝人君」
――最悪だ!
 自宅の扉を開いた瞬間、できれば一生会いたくない人物が自分のパソコンの前で座っていた。
 ケーキの箱を落としそうになるが、両手で受け止める。
「ね、帝人君。それ何?」
「臨也さんには関係ないです。それより速く出て行ってください」
「それ、シズちゃんに貰ったんだよね」
 知っているのなら聞かなきゃいいのに、と睨み付けながら考える。
 パソコンにはパスワードを掛けていたはずなのに、この人にはそんなの通用しないらしい。
 ケーキを台所に置き、手を洗う。
 臨也はつけていたパソコンをスタンバイにし、帝人を後ろから抱きしめる。
「…吐き気がするんですけど」
「悪阻?」
「社会的に消しますよ」
「ははっ、冗談だよ。帝人君ならダラーズとブルースクエアを使って徹底的に俺のこと潰しそうだよねえ」
「否定はしません」
 げしっと肘で鳩尾に一発入れ、怯んだ隙に臨也の腕の中から抜け出す。
 未だに臨也の匂いが自分から漂ってきて、本気で今なら吐けるかもしれない。
 いつもならそのままめげずに抱き着いてくるのに何の行動も示さない臨也を不審に思い、振り返れば静雄にもらったケーキを眺めていた。
 嫌な予感がして臨也の名をぼそりと呟けば、にんまりとしたあの嫌な笑みを浮かべながら振り返る。
「ね、帝人君。これ、美味しそうだとは思わない?」
「そう、ですね…」
「ねー」
 笑顔を浮かべたまま素手でケーキを掴んだ臨也は、驚く帝人にお構いなしに帝人の顔にショートケーキを押し付ける。帝人が咄嗟に唇を開けば甘いホイップが中に入り込んできて少し噎せる。
「な、にするんですか!」
「あはは、ホイップ塗れの帝人君かーわーいーい」
「死ね!」
 勿体ないと顔に付着した生クリームを手で拭い嘗めとる。臨也は堪らないといった様子で帝人に抱き着いた。
「離してください、今からシャワーに入るので」
「え、一緒にお風呂?帝人君ったら積極的ー」
「…」
「…うん、謝るからその蔑んだ目で見るのやめて」
 身の危険を激しく感じ、シャワーは諦めて濡れタオルで顔を拭く。
 未だにニヤニヤした目で見つめてくる臨也に溜息を吐きながらなんですかと向き合う。
「いや、シズちゃんとはどうなったのかなって」
「見ていたんじゃないんですか?」
「うん。おかげさまでナイフが少し曲がっちゃった」
 ほら、と見せられた仕込みナイフはこれでもかというほど曲げられていて、臨也の当時の苛立ちが感じ取れた。
 静雄さんならもっと綺麗に曲げられるだろうと思い、興味なさ気に視線を洗面台に映る自分の顔に戻した。
「―――――ねぇ、帝人君」
 後ろから声をかけられたが帝人は振り向かず顔を洗う。
「君に目をつけたのも会ったのも話しかけたのも俺の方がぜーんぶ先なのに、どうしてシズちゃんなのかな?」
「分かりきったこと聞かないでくれますか?」
「帝人君はシズちゃんのどこが好きなの?」
「全部です。あげたらきりがないほど好きですよ」
 ピクリと臨也の笑みが引きつったものに変わる。
 一瞬顔から全ての感情が抜け落ちたように無表情になったが帝人が振り向いたときにはいつもの笑顔になっていた。
「で、貴方はいつまでいるつもりですか?」
「帝人君がシズちゃんを前にしたときみたいな可愛い顔で『今日はもう遅いですから残念ですけど後日また来てください』って言ったら帰るよ」
「…ふざけてるんですか?」
「いたって真面目に言ってる」
「鬱陶しいし遅いですからさっさと帰って二度と来ないでください」
「ちゃんと言ってくれなきゃヤーダ」
「心の底からうざいです」
 引っ付く臨也を玄関へとおいやる。
 もう少し渋るかと思ったが、案外簡単に玄関へ行くことが出来た。
「ま、可愛い笑顔も見れたし今日はこのくらいにしておくよ。…じゃあね、帝人君…」
 一瞬、帝人は自分が何をされたのか理解出来なかった。
 額に何かがあたった。
 それを思い出し、
「気持ち悪いっ!!!」
 本日で一番の吐気が身体中を駆け巡った。



何回か入れ代わってます
境界線がどこかは皆さんの判断ということで


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コメント
2010/10/20 13:43 誓
臨也さんのこの前向きさを見習いたいものです…
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