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生徒も教師も帰り、電気の消えた廊下。
しんと静かで心なしか冷えた廊下は肌寒く感じて恐怖を煽る。
(急がないと、たぶん、まだいる)
恐怖からか。それとも肌寒さからか。
ふるりと震える体。それでも彼女は体の震えをなんとか止めて、指先に小さな火を灯す。
「だいじょうぶ……こわく、ないっ」
声を出し、自分自身に活を入れる。
右足をぐっと踏み出して彼の元へと急いだ。
▼
やっとの思いでたどり着いた職員室。
そろりと扉を開ければ、暗闇の中に彼はいた。
やっぱりいた、と彼女は小さく息を吐き彼へと近寄る。
「……ダリ。なにしてるの?」
机に肘をついて空虚を見つめる彼の瞳。
真っ暗なそこに火を近づければ、焦げついて少しの苦みを添えた蜂蜜色の瞳が彼女を捉えた。
「なあに。もう帰ったんじゃなかったの?」
「帰ったよ。帰ったけど、ダリはいつまで経っても帰ってこないから」
「そう……」
そらされた瞳。短い返事に温度はない。
いつも上がっている口角は平坦に。いつもは弧を描く目も、伏せられて長い睫毛がよく見えた。
彼はたまにこうして暗闇の中にこもる。
教師統括になったばかりで、上手くいかないことが多かった。
でもこれは、彼が生まれた時から決まっていたこと。
悪魔が自分の道を選べない。決められた道を歩くのがどれだけ苦痛かなんて、彼女には想像できない。
けれど、その反面。
教師としてのダリを、彼自身が楽しんでいることも知っている。
教師としての自分と。個としての自分。
整理がつかなくて、1人で悩んでたまにこうして悪夢の中に堕ちていってしまう。
触れればさらりと動く髪。しばらくいつもより小さく見える頭を撫でて、ぎゅうと抱きしめた。
彼を此方に繋ぎ止めるように。
「ねぇ、ダリ。明日の朝ごはんはなにがいい?」
「明日は、そうだな……」
柔らかな頬が肩にすり、と擦り寄ってきて。はふっと小さく吐かれた息が首筋に触れた。
「明日は、君のキスがいい」
まさかの言葉にぱちくりと瞬きをひとつ。
肩に頭を預ける彼を見れば、ふふっと目を三日月にして笑った。
「君のキスひとつで僕の悪夢は終わる。君が僕の名前を呼んでくれるだけで、目は覚める」
縋るように体に回された腕。
「だから今は、安心して悪夢を見られるよ」
力が込められた両腕。体がぎしっと悲鳴を上げる。
けれど、苦い悪夢を見ているのを知っているから、抵抗はしない。
「うん。私が絶対に起こしてあげるから。心配しないで」
どんな言葉もなんの慰めにもならないことは知っている。
それでも、そばにいると伝えたくて。
いつか悪夢は見なくてすむと教えてあげたくて。
ただひたすらに朝日が教室を覗くまで、彼を全身で包み込んでいた。