あー、雨降っとるなあ、今日せっかくのデートなのに、こんな土砂降りじゃ台無しやんななあ、あー、ゆううつ。サンダル履けへんし、今日のコーディネートも考えなおさんとあかんな、んーと、どれにしよ……


 はっ。えっちょっまずい今何時?!
 二度寝から覚めると、待ち合わせ時間でした。ありえへん。信じられへん。これから着替えしてメイクして、どう頑張っても家を出るのには30分以上掛かる、いやもっと。一時間以上彼を待たせることになる。最悪。しかも、相手が普通の男の子(普通ってなんや……)なら、向こうも遅刻したりするかもしれへんし、まだ良かったんやけど(いや良くないけど)、よりによって私の彼氏はあのパーフェクト・エクスタシー白石蔵ノ介である。遅刻とかするわけあらへん。パーフェクト・エクスタシーってなんやいやらしいな。
 とにもかくにも私はそんなことを考えとる前にさっさと準備をすべきやんな。

 とりあえず蔵にメールする。「ごめん今起きた遅刻する」「なんやそんな気がしとった、分かったからちゃんと準備して来いや」あいつ、いつの間にエスパーまで使えるようになったん?!

 ええと、服どないしよ。んーとこのワンピースはこの前着たからあかん、じゃあこっち?でもなんかちゃうな、あっあのスカート!あれにしよ、じゃああのタイツ……あれ?どこやったかな……

「おかーん、あのピンクのタイツそっちにないー?」
「知らんー、ていうか、あんたまだ着替えも終わってへんの?」
「寝坊した!なんで起こしてくれなかったん!」
「起こしたわ!」
「起きなかったら起こしたっていわん!」
「起こした!」
「起こしてへん!」

「うわあー、朝から白熱しとるやん」
「くくくくくく蔵?!」
「噛みすぎやろ」
「ななななんでおるん」
「雨降っとるし、柚香来いひんし、じゃあ柚香ん家行ったろかなーて」

さすが無駄嫌いエクスタシー、雨降って完璧な計画は遂行できなくても無駄はとことん省くねんな……ってちゃう。私まだ着替え終わってへんし。メイクもしとらんし。

「うわああああ見んな!こっち見んな!」
「もう見てもうたわあ」
「それでもあかん!おかんもなんで蔵家に上げとんねん!」
「ええやん〜、こんなええ男にお願いされたら断れへんもん〜、なあ?」
「きもっ!くねってすんなやおばはんが!つうか、蔵は私のやからな!」
「どさくさに紛れて俺今めっちゃきゅんとした」
「そんなん今はどうでもええ!おとんもここは『娘はおまえなんかにやらん』て追い返すとこやで!」
「柚香……これが、『おまえなんか』で片付けられる男か?」
「……せやった」
「おかんは、白石くんがどうしてこんな娘なんかと付き合ってるのかが信じられへん」
「ああ、それは俺が告白したんです」
「ええっ?!」
「言っとくけどこれはマジや」
「白石くん……いや蔵ノ介くん、こんなんのどこがええん?」
「ちょお待ち、娘のいいとこくらいわかっとけや!親やろ!」
「あかん、全然思いつかへん……」
「わたし、泣いてええ?」

 今日は蔵とデートのはずやったのに、すっごく楽しみにしてたのに、まだ着替えも終わってへんし、ようわからんけどめっちゃ貶されてるし、どないしたらこんなしっちゃかめっちゃかになるんや。どこがパーフェクトやねん。欠片もあらへん。

「ちょおわたし部屋戻るわ……仕切り直しや」
「あ、俺も行ってええ?」
「あかん!」
「なんでなん」
「あー、あれや。エロ本隠してへん」
「それは男の言い訳や」
「でもまじで蔵の写真とか出しっぱなしやねん……!」
「なんでそんなん持っとるん」
「ほら、わたし写真部やから」
「ああ(俺の写真なんて撮ってくれてたんやなあ……!)」
「あれ高く売れるさかい、没収されたら敵わん」
「売るんかい!彼氏の勇姿を!」
「金ないねん!家は蔵んとこと違って薬剤師やないからな!」
「金がなかろうと大事にとっておくとこやろ、そこは!さっきからちょいちょい感動してるのに、片っ端からがっかりに変えんといてえや!」
「他の奴やったらそうしてたけどな!蔵かっこええし、ファンも多いし、値段もどんどんつり上がっていくんや。もー見てて笑いたくなるくらいやで」
「……あかん、どうして柚香と付き合ってんのかよう分からんようになってきたわ……」
「わーごめんなさいごめんなさい!半分は嘘です!許して!!」
「半分かい!」
「蔵大好き!ねっ!!」
「はあ……しゃあないやっちゃな……(ご機嫌取りだって分かっとるのに許してまうのやめたい……)」
「ありがとう蔵!愛しとるで!!」
「まったく……柚香は……」

 よし、これで一件落着やんな。うんうん。……って、あれ?

「なあ、蔵」
「なんや?」
「外見てみい」
「……あ」

 雨、止んどるやん。






‖虹がでてるね
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