梅雨の真っ只中において、太陽が見える今日のような天候は本当に珍しい。ここ最近の、自主練やトレーニングばかりに少なからず飽きてきていたテニス部員も、久々にコートを目一杯に使えるとあって、皆気合いの入りかたが違う。活動内容によってモチベーションが上下するようでは、全国を獲れるような力はつかない、と跡部は思っているが、それでも燦々と降り注ぐ日の下でラケットを振ることができるというのは、やっぱり嬉しい。久しぶりに顔を合わせた空の主も、ここぞとばかりにコートをあまねく照らし、空気はさながら真夏である。

 ただ、こうも外が明るいと、太陽光が窓に反射して、教室内の様子が確認しづらくていけない。何とはなしに、校舎の最上階左隅の窓を眺めるのが跡部の癖になっていた。電気がついていれば、それは霜山がそこにいる証拠だ。九割九分、彼女は一番乗りにやってきて一番遅くまで残っている。それを見つけてはいつも呆れているのだが、だからといって見なければよいというわけにはいかないようで、見えないとむしろ気になってしまう。

「跡部くーん、練習試合終わったよー」

 マネージャーの報告で我に返り、上に向いていた視線を目の前へ戻す。

「 、今行く」
「?なにかあった?」
「いや、なんでもない」
「でも珍しいね、跡部くんが気抜いてるのなんて初めてじゃない?大丈夫?」
「ああ、気にするな」
「体調悪いなら無理しないでよね?」
「いや、大丈夫だ」
「ふーん。まあ、気を付けてね」
「ああ」

 よく働き、気もきいて、部員との仲も良い。どこかのだれかとは大違いだ。ああ、よく働くところだけは一緒か……むこうは、よく働くどころではない気もするが。自分は炎天下ごときで倒れるわけもないが、彼女は無理してまた体調を崩したりはしていないだろうか。気をつけろとは、俺ではなくあいつに言ってやるべき台詞だ。

 またも意識が彼女に向かっていることに気付いて苦笑した。まったく、自分はどうかしてしまったんだろうか。


「やっと自覚した?」
「……どういうことだ」
「やだなあ、分かってるだろう?」

 氷帝学園高等部テニス部では、中等部と同じく下剋上制を採用しており、レギュラーメンバーの入れ替わりが激しい。そのため、レギュラーの部室では、個人個人に専用のロッカーが与えられるのではなく、いわゆる「自分のロッカー」が毎日変わる。――とはいえ、レギュラーになれるレベルの部員は限られているので、そこまで頻繁にロッカーの中身を移動させる必要は、実際のところないのだが。
 今、跡部の隣で着替えている滝は、中学のときに一度レギュラーを降ろされたものの、その後どれ程の努力をしたのだろう、高等部に上がってから再びレギュラーに返り咲いた。一度挫折を経験したものは強い、宍戸しかり、滝しかり。彼の実力は、跡部も認めるところである。
 跡部は滝のことを敏い奴だ、と思っている。いや、敏いというより目敏い、といったほうが正しいか。周りをよく見ている。眼力なら、ことにテニスに関わることなら自分の右に出るものはないいう自負もある(なんと言っても必殺技がインサイトである)が、興味の違いだろうか、恋愛に関しては滝に敵わない。

「最近、今まで以上に生徒会に熱心だなあと思ってさ」
「……別に、高等部の文化祭実行委員長が熱心になるのは不自然でもないだろう」
「最近、今まで以上に生徒会副会長に熱心だなあと思ってさ」
「言い直さなくていい」
「何の話しとるん?俺も混ぜえや」
「跡部くんの副会長のお話」

 ラブロマンス好きの関西人が首を突っ込んできた。ああこれは面倒くさくなるな。こちらは早く片付けを済ませて生徒会室の様子を見に行かなければいけないというのに。

「ああ、やっと進んだんか!どこまでいったん?」
「どこまでも行ってねえよ、馬鹿」
「ええ〜はぐらかすなや〜」
「やっと跡部が自覚したところだよ」
「うわ遅っ!ずっと一緒におったんに、最初の一歩踏み出すまでに何年かかっとるん」
「そんなだから見てて楽しいんだけどねえ」
「せやな」
「……お前らは俺らのことをそんな目で見てたのか」
「うん」「おん」
「中等部のときからずっと観察してたんだけどさ、ぜんぜん進展しないからやきもきしてたんだよ」
「何回かちょっかいかけてんけど、どっちも鈍感過ぎて引っかかってくれへんかってん」

 呆れた。というか、そういうことは本人の前で暴露していいのか。

「……もういいか、これから用があるんだが」
「せやな、はよ姫さんとこいってやり」

 俺はまだどこに行くとは言ってない。

「え、皇后じゃない?」
「でもまだやんか。将来王様の妃になるんやったら姫さんであってるやろ」
「ああ、そうだね」
「姫さんのほうがかわええし、呼びやすいしな」

「跡部、ほら早く行きなよ」
「何かあったら俺らが全力でサポートしてやるさかい、話聞かせてくれな〜」
「じゃあねー」

 あいつら完全に面白がってるだけだろう。……まあ用があるの場所に間違いはないのだが。これ以上二人相手をしていても無駄に疲れるだけなので、部室を出て校舎へ足を向けた。







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