私のバイト先である居酒屋東東京は、親父さんがイースト・トーキョー・ユナイテッド(以外ETU)の会長を勤めていることもあって、クラブから贔屓にしてもらっている。今日も中断期間を前にしての打ち上げということで、小さな居酒屋はぎゅうぎゅう詰めである。そんなわけで私は死ぬほど忙しいのだけれど、みなさん私もETUの一員であるかのように優しくしてくれるし、何よりこれを乗り切れば明日は給料日。だから全然苦ではない。私、馬車馬のように働くのでバイト代弾んでくださいね、親父さん!
「親父さん、枝豆ひとつ追加お願いします」 「はいよ、そうだ、これ運んだら休憩しな。なんなら向こう混ざっといで」 「え、いいんですか?」 「構わんよ。柚香ちゃんがここを支えてくれたおかげで俺も安心して会長やってられるんだ。まあ今日の賄いだと思ってくれ」 「ありがとうございます!じゃあお言葉に甘えて……」 「いってらっしゃい」 「お邪魔しまーす」 「あー柚香ちゃんこっちこっち!もー全然女の子いないから寂しくって!」 「やっぱり女の子が増えると華やかでいいねえ」 「あら、女の子ならここにもいるわよ!」 「アラフォーの枯れた花添えても盛り上がんないっすわ、橋本さん」 「なによ、失礼ね!」 「丹波さん発言がおじさんですよー」 「えー俺まだ現役だぜー」 「今の子供は二十歳すぎるとおじさんおばさん扱いするんですよ〜」 「えっ」 「でも丹波さんサッカーしてるし若々しくてかっこいいと思いますよ!」 「もー柚香ちゃんたらあ、俺奥さんいるんだからねー」 「狙ってないから大丈夫でーす。あっここ失礼します」 有里さんの隣に座ると、向かいは椿くんだった。こういう雰囲気に慣れていないのか、宴会が始まってから結構経っているのにまだ緊張がほぐれていないようで、なんだかそわそわしている。ここでバイトはじめて三年目、それなりにサッカー選手を見てきたと思うけど、こんな人は初めてだ。それでいてあんなプレーをするのだから、ピッチの外じゃサッカー選手は判断できないなあ。 「おー椿くんだー。前半戦大活躍だったじゃないですか。見てましたよー」 「あ、ありがとうございます……」 「後半戦も期待してます!って椿くん、二十歳だよね?」 「はい」 「じゃあ敬語やめようよ。同い年だし」 「えっいやでも」 「せっかくだし仲良くましょうよ。ね?」 「は……うん。よろしく」 「よろしく!」 「こういう席でも椿くんってへたれなんだねー。って全然お酒飲んでないじゃん。もしかして苦手?」 「ちょっと、まだ」 「言ってくれればジュース出したのに。待っててね取ってくるから」 「ありがとうござ……ありがとう」 「はいどうぞ」 「どうも」 「いちいちお礼なんていいのに。こっち仕事だし。椿くんかわいいなあ」 「えっ、あっ……」 「照れてる照れてる」 「……」 「お前がめんどくさい絡みするから椿困ってんじゃねえか、気持ち悪い」 げ。椿くんの隣はあろうことか、遼だった。何が嫌って、こいつは私の元彼なのである。そうだETUの宴会ということは遼もいるんだった。別れたの一年半も前だしもう気にしてないんだけど、会うたび向こうからつっかかってくる。めっちゃ腹立つ私が誰にちょっかいかけようと関係ないじゃん、ねえ! 「別にそんな困らせてないもん、ていうか気持ち悪いのほうが本音でしょうがめっっっちゃ失礼なんですけど!」 「もんってお前が言ってもかわいくねえな」 「はっありえない!そんな私のことかわいいって言ってたのはどこのどなたでしたっけねえ、赤崎さん?」 「……いつの話持ち出してんだよ。お前のかぶった猫に騙されてたんじゃねえの、こんなやつだとは思わなかった」 「それはお互い様ですねえ。本当に別れて正解でしたわ!」 「わざわざ別れてやったんだ感謝しろよ」 「違うし!フったの私だし!」 「何言ってんだよ俺だろうが!」 「わたしですー」 「俺だ!」 「私!!」 「あーもう2人とも!痴話喧嘩するならよそでやって!」 「上等だあんときの決着つけようじゃねーか」 「臨むところだちょっと表でろや」 「……まったく、あの二人どうにかならないのかしら」 「えと……あの二人、つ、付き合って……?」 「けっこう前の話だけどね。喧嘩別れしたらしいんだけど、お酒入ると今でもああなるのよ」 「……はあ」 「それにしてもこんなところでまで喧嘩しなくてもいいのに」 「あんな息ぴったりならより戻せばいいのになー」 「それができないからこうなるんですよ、ガミさん」 「まあ、お互い素直じゃあなさそうだからなあ」 ‖そんなふたり 110111 |