「どういう、こと……?」

 大事なことなので二回言いました。どういうこと?ってなった人には、前回のお話を復習することをお勧めします。

「私が奴のことを忌み嫌っていることは、椿くんも知ってるよね?」
「そうかなあ……?」
「どうしてそこに疑問符がつくのかなあ」
「え、だって、霜山さんと赤崎さんっていいなーってずっと……!」
「どこをどうみたらそうなるの!?会う度喧嘩しかしてなかったと思うんだけど!」
「あー、ええと、ほら、喧嘩するほど仲がいいとか、言うじゃん」
「ないない!私らに限ってありえない!」
「(そう必死に否定されると余計に……!)でもっ、霜山さん、赤崎さんの話よくするし……」
「どうせ文句でしょー、あんな奴がでしゃばってたら誰だっていらっとするもん」
「でも、良く見てるなーって……あ、あと、赤崎さん、霜山さん絡むと目付き変わる……気がするし」
「気のせい!それに、どう考えても嫌悪の目線じゃん、それ」
「うーん(違うと思う)……」


「いーい、絶対に遼なんかありえないからね!もうこんな世迷い事口に出さないでよね!」
「はい……(ここまで言われちゃうとか、赤崎さんもかわいそうだなあ……あ、失礼かな……)」


 あれ?私別れ話切り出されたんだよね?なんで私がお説教する展開になってるの……しかも遼がらみでとか。ないないありえない。遼だけは、ない。うん、ない。


 そんなわけで、とても締まらない感じだったのだけども、一応失恋して傷心中だった私の耳に飛び込んできた、友人の一言は正に渡りに船だったのです。

「あーまじ合コン人集まんない……どうしよ」
「ごめんね〜」
「彼氏持ちは黙ってなさい」
「じゃあ柚香誘えば……って、いい感じの子いるって言ってたね」
「行く」
「えっなんで!?つばき……くんだっけ?とはどうしたの?!」
「振られたあ……」
「まじで?あと一歩って言ってたじゃん」
「なんか気遣われてたっぽい……」「うわーそれ辛いわあ」
「彼氏持ちに同情されたくないんだけど」
「ごめんね〜」
「ねえほんとこいつ腹立つ」
「ああもう、頑張ってたのにまたシングルベルとか最悪だあ〜」
「あれ?柚香って割と彼氏はいたよね?」
「そうなんだけどさあー……この私がクリスマスに限って毎年独りとかほんとありえない……」
「あんたはそういう発言が許される顔してるから腹立つよね」
「でしょー?」
「……今までも薄々思ってたんだけど、柚香は性格に難があるんじゃない?」
「……ああ、納得」
「えっひどっ、二人して」
「そういうところだよ」
「ええ〜」

「でもよかったあ、あんた来てくれると雰囲気良くなるし」
「……こんなことにならなければ私は合コンになど……!」
「大丈夫だ、私もいるから」
「ごめんね〜」
「「お前は黙ってろ」」



「ねえ、その合コンってどんな人くるの?」
「んーまあこっち側はうちの大学から、って感じだけど、向こうは別に大学生って訳じゃないっぽい。社会人もいるって」
「ふーん」
「あ、なんかサッカーの選手連れて来るって言ってたな……あれ?野球だったっけか」
「いや、サッカーと野球はごっちゃにならないでしょ」
「いやあ、私スポーツ興味ないし」
「のりこ、幹事だよね?そこは大事にしよう?」
「まあとにかく、サッカー選手だったらあんた遠慮してよね、バイト先でいくらでも接点あるんだから」
「話そらさないでよ」
「まあまあ」
「……今はサッカー選手の気分じゃないし」
「よしこれで競争相手一人減った!」
「って、サッカーと野球がごっちゃのくせに大目玉狙う気でいるわけ?!」
「だって顔も良いって言ってたしー」
「えっそれなら私だって戦う前から戦線離脱しないよ!」
「サッカー選手の気分じゃないんでしょ〜?」
「顔は別ですー!」
「やめなよ、合コンに来るちょっと顔がいいやつを始まる前から取り合うとかみっともない」
「「だから、彼氏持ちは黙ってろ」」



 その時は気付く由もなかったのだ、その大目玉がとんでもない地雷であるということに……


「赤崎遼っす。サッカーやってます。よろしく」

 なんということでしょう。顔の良い(たぶん)サッカー選手ってまさかこいつかよ。いやなんでわざわざETUから引っ張ってくるのよ。ETUにしてもこいつである必要ないだろ、顔いいやつ他にもいるじゃん。王子……はともかく、清川さんとか椿くんとかさあ。……いや、椿くんだったらそれはそれで困ったけど。むしろETUのスタメンから選ばなくたっていいしETUじゃなくて東京V(流石にハードル高すぎか)とかさあ。いっそ野球選手とかラグビー選手とかさあ。のりこの記憶が間違っていてくれたら良かったのに。

 向こうだって私に気づかないわけない、よなあ。幸い席は端っこと端っこだけど、……ああもうどうしたら。知らない体でいたほうがいいの?かな?とりあえず、目を合わさないように、話をしなきゃいけない状況を作りださないようにしなければ。

 良かったね、のりこ。私はそいつを取り合う気には到底なれないよ。……でも顔の良いプロサッカー選手は、私以外の全ての女の子が狙っている。私一人が試合を放棄したところで、彼女の勝率が上がるとは思えない。……頑張れのりこ。

 奴を連れてきた、高校時代の同級生だという彼(以下、参加している男子全員)は、遼ばかりが持て囃されるので少々つまらなさそうだ。遼にはみんなを取り持って場を盛り上げるような能力はないし。いやまあ盛り上がってはいるけどね、一部は。他の男の人たちは、女子の中で唯一あいつにくっついてない私に話しかけてくれるけど……あいつが目にはいった瞬間から私のテンションはだだ下がりである。ごめん。正直帰りたい。

 遼はあまり乗り気じゃないのかただ単に格好をつけているだけなのか、女子連中の質問攻めに少し疲れているような受け答えをしている。「クールでかっこいいよね〜!」馬鹿か。遼ももう少し真面目に答えてあげなさいよ、さっさとお気に入りの子見つけなさいよ、それでさっさと目の前から消えてくれ。あんたが女の子に囲まれてるのとか吐き気がするわ。のりこを筆頭に女の子たちも女の子たちだ。そんな顔と職業だけにつられてるとか馬鹿じゃないの、そいつただのかっこつけですよ。すごく口悪いし、色々めんどくさいよ。やめたほうがいいよ。……さっさと消えてと遼はやめとけって、矛盾してるなあ。私は何を考えてるんだろ。いらいらする。……ゆうじくんだっけか、色々話しかけてくれてるけど、ぜんぜん内容が入ってこない。ああもう全部あいつのせいだ。


 やっと一次会が終わった。まあほとんどの子が二次会に行くみたいだけど。

「私、帰るね」
「えー、柚香ちゃん帰っちゃうの?」
「うん、明日早いから」
ごめん嘘。もうここにいる気力がないんだ。
「俺、送ってこうか?」
と、ゆうじくん(多分)。ごめん、めんどくさくて適当に話合わせてた。脈とかないよ、本当にごめんね。今は一人になりたい。

 あいつなんかがここにいるから。全部全部遼のせいだ。自分が勝手に機嫌悪くなってるのは分かりきってるけど、こうでもしないとやってられない。



 何とか言ってその場を抜け出して、少し落ち着いてきた。頭冷やしたいし、歩いて帰ろうかなあ、ここから家まで、歩けない距離じゃないし。

「おい」

……後ろから声を掛かった。いや私に向けられたものじゃないかも。でも周りからはおい、に応えたと思われる声が聞こえてこない。「おい、」気のせいだと思いたいけど、凄く聞き覚えのある声のような気がする。さっきのゆうじくん(多分)のものではない。……ものすごく、いらっとする声だ。

「……おい、聞こえてんだろ」
「私はおいなんて名前じゃありませんけど」
「今ここで名前呼んだら『気安く呼ぶな』っていうだろお前」
「よく分かりましたね」
「……お前の敬語、気持ち悪い」
「もう親しい間柄でもないじゃないですか」
「無理して敬語使ってるのが腹立つんだよ。敬語苦手とか言ってたくせに」
「そんな昔のこと、よく覚えてましたね」
「二年前なら大して古い話でもないだろ。……お願いだから敬語やめてくれ」
「……あんたお楽しみ中じゃなかったの、いいの?二次会いかなくて」
「別にどうしても来いって言われたから行っただけだし」
「ええー、遼狙ってた子めっちゃいたじゃん、けっこう可愛い子もいたし」
「興味ない」
「うわーかわいそー」
「お前こそ椿とはどうなったんだよ」
「……ふられましたよ」
「はっ、あいつにふられるとかざまあねえな」
「あんたは彼女とかいないわけ……っていたらあんなとこいかないか」
「一年半前に別れた」
「ふーんあんたもなかなか寂しい奴だね、ってそれ私じゃん」
「そうだよ」
「その後なんもなかったんだ?」
「なかった」
「おモテになるから彼女の一人や二人いると思ってた」
「……そうでもねえよ」
「じゃあ好きな子とかは?」
「いる」
「え、いるって現在進行形?なのに合コンとか来ちゃっていいの?」
「仕方ねえだろ、断れなかったんだから」
「意外、遼そういうのばっさり切りそうなのに」
「流石に仲良いい奴に土下座される勢いで頼まれたら断りきれねえよ、俺も」
「……あーそれは仕方ないねえ……その子はそのこと知ってるの?」
「んー……知って、る。つうかなんでお前そんな根掘り葉堀り聞いてくんだよ」
「えー、こういう風に話すんの久しぶりだよねー、なんか気になる」
「…………」

「もうすぐクリスマスだね」
「そうだな」
「じゃあ遼はその子と一緒に過ごすんでしょ、いーなあ」
「上手くいけば、だけどな」
「?遼にしては弱気じゃない?上手くいってないの?」
「……微妙」
「なーんか珍しいねえ、殊勝な遼って。どうしたの〜?」
「なんでお前に言わなきゃいけねえんだよ……」
「優しい元カノが相談に乗ってあげようっていうんじゃない、いいでしょ」
「あーだから、なんでよりによって……もういいだろ」
「なんでよ?」
「……辛えんだよ、これでも」
「……あんたも恋するんだねえ」
「ったく!お前はなんでそう傷を抉った上で塩塗りたくるんだよ!」
「ごめんごめん、私だって失恋したばっかなんだもん、自分で聞いといて今けっこう辛いわ」
「馬鹿だな」
「馬鹿だね」

「あーあ、シングルベルかあ……いや、そもそも私仏教徒だし?本来クリスマスとか関係ないし!つーか聖なる夜じゃん、きよしこのよるじゃん、彼氏といちゃいちゃするとかまったくいかがわしこのよる!そうだ、私はクリスマスを清く正しく過ごすのよ!!」
「はっ、必死だな」
「なによう、私は正論を語っているのよ!」
「はいはい、そーですか」
「あんたなんて勝手にいかがわしこのよるしてればいいのよ」
「お前のきよしこのよるが上手くいくよう願ってるぜ」
「どうもありがとう」



 くだらない話をだらだらしているうちに、家はもうすぐそこで、
「あれ遼、私なんかとしゃべってて大丈夫なの」
「ん、平気」
「向こうが遼のこと好きだったら嫉妬とかしちゃうよ?」
「……むしろ可愛いな」
「うわあ、完全にデレデレじゃん、羨ましい」
「それは……」
「ん?いいから今からでもその子に電話でもしなよ。ていうかさあ、嫉妬の対象にされるの恐いんだよ結構」
「……ぷっ」
「えっ、私なんか面白いこと言った?」
「いや、なにも」
「遼やっぱなんか変だわ。いやあ恋って恐いね」
「ああ、おかしいかもな……」
「あーだから私とこんなことしてる場合じゃなくって。早く帰んなよ」
「そうだな……」
「いやそうだなじゃなくて。勘違いされちゃうよって。なに私のこと好きなの?」

 さっさとその子に電話してあげてね。きっと喜ぶよ。じゃあねばいばい。


 ほんと、あいつ変なの。
 家に入って着替えて、ちょうど一息着いた頃に携帯が鳴った。

「もしもし?」
「柚香……あ、わりぃ、間違った」


 ……うっかり勘違いしそうになるじゃない、私が。







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