※ヒロインは虚言症
もちろん、実在する虚言症(人格障害)の方を誹謗中傷するような意図はまったくありません。好意的に捉えているつもりです。
また、ある程度は知識を頭に入れてから書いていますが、ところどころ間違っていたり(捏造していたり)、不快に思われるような内容があるかもしれません。そのあたりをご了承いただきたく思います。

いいよって方はどうぞ
 



「その指輪、かわいいー」
「ありがとう、これね、彼氏がくれたの」
「えー、いいなあー」
「皇国ホテルの夜景がすっごく綺麗なレストランでね、いつか立派に養えるようになったらもっとちゃんとしたプロポーズするから、それまでこれつけて待っててほしいって言ってくれてね、」
「うわあ、ロマンチックー!うらやましいなあ!」
「彼ね、サッカーが上手なの。プロでね、試合にもたくさん出てるんだ」
「えー、すごーい!」



 ……また、やっちゃった……
本当はそんな素敵な婚約者どころか、彼氏すらいない。

私には虚言症がある。見栄を張ってついているわけではなくて、本当に無意識のうちに、嘘が口をついて出てきてしまう。下手したら自分が嘘をついていることにさえ気づかない。そんなだからその場しのぎの私の嘘は支離滅裂でバレバレなんだろう。人からは信用されないし、友達もほとんどいない。当然彼氏なんているわけがない。
これでも私は自覚症状があるからまだましなほうだ。それでも嘘をついたことで自己嫌悪、また信用をなくしたと虚しくなって、その虚しさを埋めようとまた嘘をつく、の無限ループ。人にだってストレスを与えているんだろう、でも、私だって苦しい。自分で自分が制御できない辛さは、普通の人にはきっとわからない。

 ……あーあ、また、被害者ぶって。自分の嘘が原因なのに。これも虚言症の症状?本当に嫌になる。もしかしたら今考えていることすら、嘘なのかもしれないと思うことさえある。私は虚言症です、さえも虚言症の私が言うんだから本当か嘘かわからないわけで。でも虚言症の私が偽物なら本当の私は正直者……?ああ、もうなにがなんだかわからないよ!頭おかしくなりそう!元々おかしいけど!!



「大丈夫、大丈夫だから。柚香ちゃんはちゃんと自分のこと分かってるよ、俺が見てるよ」

すとん。そっと抱きしめられて頭をぽんぽんと撫でられて、子供をあやすような口調で優しく声をかけられて、やっと落ち着いた。私は自己嫌悪が過ぎてパニックになることもしばしばで、そういうときの私は泣きわめいたり物を手当たり次第に投げたり、本当にに手がつけられなくなる。それこそひとりじゃどうしようもない。そんなとき、いつもの私を取り戻してくれるのは清川さんだ。こうやって清川さんに頭ぽんぽんしてもらうの、落ち着くなあ。……好きだ、なあ。

 清川さんはやさしい。私みたいなひとに、ちゃんと向き合ってくれる。嘘じゃない本当の気持ちをくれて、私が取り乱したときはいつも頭をなでて、落ち着かせてくれる。私の嫌なところも全部掬ってくれる。そうしてもらっている間に、いつのまにか好きになってた。いつも迷惑ばっかりかけて、頼ってばっかりで、好きだなんて都合よすぎだよなあ。それに、こんなやつに好かれたって、清川さんからしたら良い迷惑だよね……ていうか、虚言症の私が好きっていったところで、きっと嘘だと思われるし相手にされない。もう、本当に、自分、嫌だ。せっかく落ち着いてきたのにまた涙出てきた。

「え、ちょっと?!なんで?何で泣くの?!俺なんかした?」
「いや、ごめ、なさ……っ」
「あーもう、どうしたんだよ……いいよ、ほら、泣きたいだけ泣きなよ」
「……っ、ごめん、なさい……」
「何で謝るんだよー、柚香ちゃんなんにもしてないよ?柚香ちゃんがそれで楽になるなら俺も嬉しいしさ、ね?」
「……っ、」

 お言葉に甘えて思いっきり泣いた。背中をさすってくれる大きな手はまるで壊れ物を扱うみたいに優しくて。きっと、訳も分からず大泣きされて困ってるに違いないのに、私の相手なんて面倒以外の何物でもないだろうに。清川さんなら他にもっとちゃんとした女の人が似合うのに。
ああもう、どうしてそんなに優しいの。好き。偽物ばっかりの言葉の中で、その二文字だけは本物なんだ。それだけは確かだよ。私がどうしたってついてしまう嘘を、これから本当にしていけばいいんだよって、そうしたら嘘つきじゃなくなるだろって言ってくれたあのとき、私の人生は変わったの。あなたが私の本当を見つけてくれて、すごくすごく嬉しかったんだよ。

 まだまだ私の虚言癖は治らない。でも、さっきついたサッカー選手の素敵な彼氏の嘘は、本当にしたいな。
自分で自分を本物だと認められるようになるまでは、とっておきの真実はしまっておこう。清川さんは、待っていてくれるかな。きっと待っていてくれるよね。長い道のりで、迷うこともたくさんあるだろう。そのたびに清川さんに頭をなでてもらおう。情けないことにひとりじゃ歩けないけど、清川さんが手を引いてくれるから大丈夫。ゆっくりでもいつかゴールにたどり着けるよね。



いつか嘘を真実にできる日まで。







‖にせものまじりのほんとう
110226

(白昼夢さまへ)
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