「ごめんなさい」

 え、今、なんて?
頭がぐわんぐわんいってる。聞きたくない信じたくないと脳みそが拒否している。いやだ、やめて、私たち、けっこううまくやってこれてたじゃない。なのにどうして。

 暖房を焚いて暖かな私の部屋、ハロウィンも通り過ぎ、街がクリスマスムードになってしばらくした頃だった。そろそろ私もクリスマスを共に過ごす相手に予約を入れておこうかと、要するに椿くんの素敵なヘタレっぷりのおかげでなかなか進展のない私たちの仲を友達から恋人へランクアップさせようと、私が行動にでたその矢先。椿くんだって、私と一緒にいるのは嫌じゃなかったと思うし(けっこう友人期間も長かったのだ、そのくらいの自惚れは許されてしかるべきだ)、私の最終目標も一番最初に伝えてあるし、別に私が次に進もうとするのは不自然じゃない。そのくらい、いくら彼がうぶだって分かっているはずだ。だから、私がその手を引いたらついてきてくれると、思っていた。どうやら思い違いだったようだ。私の愛は一方的で独善的だったということ。あほらし。

「ねえ、もう一回、言ってくれる?」
「……、ごめんなさい……霜山さんと、お付き合いは、できないっす……すいません」
「……ああ、いいよ、ねえそんな謝らないでよ。椿くんなにも悪くないし」
「いやっ、でも……」
「謝られるとさ、私が申し訳ない通り越して惨めになってくる、からさ」
「すいません……」
「あー、もう……あのさ、どうしてそういう結論に至ったか、聞いてもいい?」
「あ、えっと……あの、別に霜山さんのことが嫌いになったとか、そういうんじゃなくて。むしろ、好きなくらいで、女の人として、素敵だなあとも思うし」
「うん、(じゃあなんでよ)」
「霜山さんとは、友達でいたいっていうのは、駄目ですか」
「え?」
「いやあの、すいません、えっと、霜山さんのことは、好きなんです。好きなんですけど、なんか違って。俺よく分かんないけど、俺の霜山さんが好きっていう気持ちは、恋愛の好き、じゃないと思って。一緒にご飯食べたり、テレビ見たり、練習見にきてくれたりすんのは楽しいけど、その、そういう人たちのすることとはなんか違う気がして」
「……そっ、かあ」
「……ごめん。こんなこと言って、すごく霜山さんのこと傷付けてるのは分かってるんだけど、すごく自分勝手なお願いだけど、よかったら、これからも、仲良くしてくれると、嬉しいです……」
「分かった。こっちこそ、ごめんね」

 そうだったのか。別に椿くんがヘタレなわけじゃなかったんだ。私を傷付けまないと、相手してくれてただけなのか。それに私が気付かなかっただけか。ますますあほらしい。今日だって、どうしたって私が悲しむの分かってるから、色々考えてきてくれたんだろうな。……椿くんみたいな優しすぎるひとの優しさは時に、より深く心をえぐる。正直、もっと早く無理ですごめんなさい、って言ってくれていたら、一番楽だった。まあ、椿くんは、私を好きになろうと精一杯努力してくれたんだろうけれど。これはどこまでも椿くんに甘えようとする私のエゴだ。情けない。

 暖房の電源は切っていないはずなのに、寒い。心が寒いってこういうこと言うんだなあ。ショックとか情けなさとか色んな感情が混ざって、ダムは決壊寸前だったけど必死でこらえる。ここで泣いて、これ以上の馬鹿になるような真似は絶対に避けたい。



「えーっと……あのさ、霜山さんには、俺よりもっと良い人がいると思うんだ、よね」
「なに、言ってんの……椿くんは良い男だよ……」
「あ、ありがとう……ってそういうのとはちょっと違って。というか……えーと……」
「……何でしょうか」
「うーんと……」
「(そんな言いにくいことがまだ残ってるんですか……もう私充分傷付いたよね)」
「……赤崎さん、なんだけど」

どんがらがっしゃーん。
頭に金ダライが落ちてきたみたいな感覚。いや、さっき最初にごめん、って言われたときもそんな感じだったけど、前のは空の金ダライで、今回は氷がたっぷり入ってキンキンに冷えた水で満杯になった金ダライが頭を直撃した感じ。いや私こんなこと考えてる場合じゃあないだろう。どうして今ここであの野郎の名前が出てくるんだ。むしろ今一番聞きたくないのに。ていうかいつでも一番聞きたくない。

「あのー……、今、なんて?」
「赤崎さん、です」

聞き間違いではなかったようだ。

「どういう、ことでしょうか?」







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