俺にもはじめて女友達ができました。……って言っていいのかな。小学校時代までは別として、自分の性格上女の子と気軽に話したりってなかなかできなくて。でも霜山さんは気さくだし、ETUのこともよく知ってるから気楽でいられるというか。サッカー以外の友達って今まであんまりいなかったし、なんだか新鮮。女の子だけど、変に気を使わなくてもいいよって雰囲気とか……一緒にいて落ち着くし、楽しい。
問題は、彼女は同じように思ってないってことだ。友達になるときにはっきりと「最終的には椿くんの彼氏の座狙ってくからね!」と宣言されている。いつもはそんなこと全然意識させないのに、たまに迫られるとそういう経験値がほぼ皆無な俺はすごく焦ってしまう。……どうしたらいいか、わからないんだよね。

申し訳ないけど、俺としては、霜山さんとはそういう間柄にはなりたくないんだよなあ(とりあえず、まだ)。別に彼女のことは嫌いじゃないし、……どきどきすることが無い訳でもない。すごく魅力的な女性だと思う。でも、彼氏彼女の関係は、なんだか違う気がする。霜山さんとは友達でありたいって思うのは、駄目なんだろうか。

 それにはひとつ、赤崎さんのことがある。


 今日の練習にも、霜山さんは見学にきてくれている。終わった後にはいつも「今日も格好よかったよ!」と言ってくれて素直に嬉しい(すごく照れくさいけど!)。彼女は友達でもあるけれど、ETUのファンで俺のファンでもある(これも恥ずかしいな……)。
フェンスの向こうの女の子の大軍(ほとんど王子のファンだ)のはしっこあたりにいる霜山さんは、不思議と目を引く雰囲気みたいなものがあって割と見つけやすい。たまにそっち側を見ると目が合うことがあって、手を振ってくれたりする。
そうじゃないときは、大抵赤崎さんのことを睨みつけている。赤崎さんと霜山さんの間に様々な確執があるのは聞いている。夏の宴会では大喧嘩をしてみんなを呆れさせていた。試合のあとなんかも、なぜか赤崎さんのプレーにいちいちケチをつけている。よかったプレーにも。というか、霜山さんが口を開くと、かなりの確率で赤崎さんになにかしらの文句を言っている気がする。逆に赤崎さんのことよく見てるよな……って、違うのかな。どうなんだろう、俺にはよくわからないんだけど。

 赤崎さんは、どう思ってるのかな。最近、赤崎さんがいつも以上につんつんしてるような気がして……ちょっと、こわい。いや、気のせいだと思うんだけど。俺が気にしすぎなだけだよね、うん。

 霜山さんは、いつもにこにこしている。表情はくるくる変わっていくんだけど、基本的に明るい雰囲気はかわらない。それが赤崎さんがからむと途端に豹変する。どす黒いオーラ丸出しだ(ああ、黄色い声援のなかでひとりあんなもの撒き散らしてたら確かに目立つかもなあ)。睨む、目があったら思いっきりそらす。練習の後の交流タイムも、ひたすら赤崎さんに罵詈雑言を浴びせるか、話しかけても無視。……赤崎さん、かわいそうだなあ……って失礼か。赤崎さん、付き合ってるときにそんなひどいことしたのかなあ?
二人が一緒にいるときは、なんというか近寄りがたい雰囲気がある。残念ながら恋人同士のそれではなくて。残念ながらってなんだ。うーん、でも以前付き合っていたからなのか、喧嘩してても間合いはぴったりというか、二人してそんなすごい剣幕なのがもったいないなあ、なんて思ったりする。にこにこ笑っていたら、美男美女カップルですごくいいんじゃあ、ないかなあ……それこそ近寄りがたい雰囲気、良い意味で。まあ、赤崎さんが笑ってるところってあんまり想像できないんだけど。でも心なしか、最近いつもよりつんつんしてる赤崎さんが、霜山さんと喧嘩してるときはほんのちょっとだけ、つんつんが和らいでいるような気がする。そうやってどんどんとげとげがなくなっていけばいいのにな。うん、やっぱり、霜山さんと赤崎さん、いいと思う。一緒ににこにこしているところをみてみたい。



 ……というのは俺の勝手な考えで、赤崎さんはよくわからないけど少なくとも霜山さんの気持ちはまるで無視している。霜山さんは俺を好いてくれている、それは火を見るより明らか。なのに、なんだか違う、と思ってしまう。彼女の俺への想いは偽物だ、なんておこがましくてとても言えないけれど、俺みたいな恋愛偏差値皆無のやつに気持ちの真偽なんて分かるわけもないんだろうけど、霜山さんは赤崎さんと喧嘩しているときのほうがしっくりくるんだ。
それでもやっぱり、彼女の気持ちが少なからず俺に向いているのは本当で、その想いを否定したら霜山さんはきっと傷つく。それに、そんなことをしたら霜山さんと友達ではいられないんだろう。その覚悟は俺にはない。情けないことに、俺はどこまでも自分勝手で臆病だ。

 どこまで考えてもたどり着く結論はいつもひとつ。彼女が気付かないふりをしている掛け違えたボタンは、俺が直すよりほかない。







‖傍観者Aまたは当事者C
110217
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