というわけで私、霜山柚香、ただ今椿くんに猛アタック中でございます。椿くんって押しに弱そうだからすぐオちてくれるかなーなんて思ってたんだけど、実はなかなかそういうわけにもいかなくて。やっぱりというかなんというか、こういうことには全然慣れてないみたいで、私がほんのちょっと押しただけで申し訳ないくらいぐらぐらするもんだから、強引にいくのを躊躇してしまうというか。まあ、私の一挙一動にわたわたしてる椿くん見てるのおもしろいし、椿くんも私と一緒にいるのが嫌なわけではなさそうだし、しばらくはお友達でいいかな……なんて思って早3ヶ月。状況未だ変化なし。

 今日は椿くんの練習が午前だけだったので、椿くんの家でこの前の試合のDVDを見ています。当たり前なのかもしれないけど、練習だけじゃなくてこうやって反省会もするんだ、偉いなあ。私は隣で見てるだけ。正直どっか遊びに行きたいと思わないって言ったら嘘になるけど、椿くん見てるだけでたのしいし、私は一緒にいられるだけで充分なのです。まあ、椿くんも毎日練習で疲れてるんだし、外に連れ出すのも申し訳ない。

 画面上には、赤黒のストライプとグレーが緑の上に散らばっている。この試合は残念ながらリアルタイムで見ることが出来なかったから、私も初観戦だ。毎回スタジアムに行けたらこの上ないけれど、私は学生だからそんなにお金の余裕がない。でもこれは近くで見たかったなあ。何って椿くんがキレキレだったのだ。ゴールも決めた。……アシストが遼ってのが気に食わないけど。
椿くんがピッチ上で輝いている素敵な試合ではあるのだけれど、忌まわしき赤崎様も調子が良かったらしい。さっきからちょいちょい私の視界に入ってくるのだ。私は椿くんが見たいのに15番がやたらちらちらしてうざったい。ほらまた、カメラが15番を追いかけているから椿くんが写らない。……あ、あいつシュート決めやがった。なんなのあのどや顔。かっこつけやがって、すっごくいらいらする。
……私でもゴール決めるのはありがたいのくらいは分かってますよ。あの人がETUの若手の中じゃ今一番元気があるのも知ってる(まあスイッチ入ったときの椿くんほどではないけどね)。そりゃあピッチにでたら目立つだろう。……かっこいいのも、知ってるんです(いやほら、あの人女の子のファンそれなりにいるし!王子には負けるけど!)。でもやっぱり腹がたつ!私の前では別の意味でキレまくってる最悪な奴なのに!

 あ、また。遼が水を得た魚みたいに、王子から貰ったボールをするすると運んでいく。私が見ているのは、見たいのは椿くんの筈なのに、あいつが視界にちらついて仕方がない。いらいらいらいら。言っておくけど決して私の目は悪くない。奴が目立つのが悪いのだ。


「……霜山さんて、テレビみながらぶつぶつ言ってるよね」
「え、本当?声出てた?」
「うん。ずーっと赤崎さんにケチつけてたんだけど……」
「……ばっちり聞かれてたのか……」
「でも、赤崎さんこの試合すごい活躍したじゃん。普通だったらさ、なんかもっとこう、色々あるんじゃないかなって、思うんだけど」
「えーだってせっかく椿くん活躍してるのにちょくちょく邪魔してくるんだもん、すっごく腹立つ」
「!(うわあ、喜んでいいのかな、これ、すごく微妙な気持ちだ……)」
「これくらいでいちいち照れないでよー」
「……ごめんやっぱりそういうのはまだ慣れてなくて……」
「まあ、椿くんだしねえ」
「うん……」
「でもさあ、ヘタレもう少し改善しないと、また試合でおたおたしちゃうんじゃないの?まあこの試合は良かったけどね」
「そうなんだけど……」
「私が見ててもちょっとずつ良くなってるのは分かるんだけどなー。うーんやっぱりさ、日常生活からだよ!ほら見なよ、遼なんかひどいじゃん!ていうかあいつはもう少し椿くんを見習うべきだと思う!!こう、年下からも学ぼうとかそういう意志がないのがあいつの悪いとこでさあ、っていうか謙虚さがないんだよ、謙虚さが…………」

(まただ。霜山さん、赤崎さんの愚痴になると長いんだよなあ……さっきのDVDのときも赤崎さんにずっと文句つけてたよなあ……うーん、正直俺に言われても困る、ってそんなこと直接言えないけど……そういえば赤崎さんも、最近いつもよりつんけんしてる気がして怖いんだよなあ)

「椿くーん、きいてるー?」
「あっいやはい!」
「よーし、ヘタレ撲滅!打倒赤崎!えいえいおー!」
(……ええっ、打倒赤崎さん……はなんか違わないか?!)







‖噛み合わない歯車
110127
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