ラベンダー・アイス | ナノ





 仁王さんと別れた後、他の人たちの水汲みや薪集めといった手伝いをしてみる。
 水汲みは、私にはポリタンクに水を入れるくらいしかできない。一方薪集め、これがかなり大変。小枝程度でも良いと言われるがこの暑さでの動き回る作業。自分の体力の無さを実感する。
 手伝いも終えて木陰で休憩を挟む。私は私にできることをやると決めたけどできることがかなり少ないこともわかってくる。
 日がかなり傾いてきた。夕方は昼間のような暑さや陽射しはないが、西日は強い。昼間より紫外線は少ないとはいえやっぱり出てる。私はそれを肌でひしひしと感じ取れる。

「そんな中作業に探索にテニスの練習にって、本当に皆さんすごい……」

 彼らは一日中動き回っている。昨日あんな事故が起こったというのに立ち止まらず。本当に頭が上がらない。
 私も張り切ってお手伝いせねば、と木陰から立ち上がる。

「そろそろ夕食の準備があるからお手伝いに行かなきゃ」

 最終に行った人たちはどんなものを持って帰っているのだろうか。少し楽しみに思いながら(不謹慎だろうか?)食堂へ向かうことにした。

***

「橘さん、夕食のお手伝いしても良いですか?」
「岡峰か、助かる」

 たしか不動峰という中学校の部長さんの橘さん。爽やかな笑顔を向けてくれた。

「岡峰は料理は得意なのか?」
「そんなに自慢するほどのものではないと思いますが、それなりには」
「はは、謙遜しなくてもいい。評判になっているんだからな」

 評判という言葉につい嬉しく思って そうなんですか!と言ってしまう。いや、どちらかというと照れる。

「岡峰は謙虚だな」
「これはもう性分と言いますか……。 謙遜もいきすぎれば卑屈や嫌みに聞こえることもあると教えてもらってからは直そうかな、と思ってます……」
「そうなのか。まあ岡峰が直したいと思っているのなら応援する」

 お気遣いありがとうございます、とお礼を言う。橘さんの他にも夕食の準備の為数人が集まってきた。私を見つけると彼らは口々に よろしくな、と声をかけてくれる。鳳くんが私を見つけて近寄ってきてくれた。

「採集に行った人たちがね、すごく魚をいっぱい釣ってきてくれたんだよ。それにこれ、見て」

 そう言って鳳くんはいくつかのバケツを見せてくる。中を見ろということだろうか。
 中を見るとそこには様々な魚と、別のバケツには大量の貝が。宝の山だ!

「すごい量の貝!」

 見たところ細かい貝が多いから、潮干狩りでもしたのだろうか。海水につけておいたら生きてるわけだから保存もできる。た、食べたい。 アサリにハマグリに、と漁っていると下の方にはゴロゴロと大きなサイズの貝が転がっていた。

「えっ、え!?」

 アワビ!?なぜ!と鳳くんが見ると私の反応を見て アハハ、と笑った。

「ビックリするよね、僕もこれを見たときはビックリしたよ」

 大きなアワビや、これはサザエか。そんな大きめの貝がゴロゴロと入っているバケツを持ち私はどうしたら良いかわからず佇んでしまう。

「とりあえず、小さい貝は汁にでも入れるか、良いダシがとれる」
「そ、そうですね。アワビやサザエはどうしましょうか、ご飯に混ぜて炊くとかでも美味しそうじゃないですか?」

 沢山あると言っても全員に一個ずつというほどはない。ご飯なら皆に行き渡りそうだ。

「ではそうしよう。この貝たちは下ごしらえからせねばな。岡峰は魚をさばいてくれるか? かなり量はあるが……」
「はい。任せてください」
「鳳、この貝たちは任せてもいいだろうか」
「はい。下ごしらえしておきますね」
「ああ。では俺は他の者たちは今の食材が何があるかを確認して適当に作ってくる」
「橘さん、ストックとどんなものが出来そうかはこれを参考にしてください」

 私は橘さんに夕食用にも作っていた献立案を渡した。 参考程度にどうぞ、と渡すと、橘さんは少し驚いていた。
 柳さんから山菜の採集もあったと話を聞いたし、真田さんときのこを取りに行ったし、色々と書いてみたが、どうだっただろうか。

「こんなものまで用意してくれているのか」
「大したものでは。橘さん料理が得意そうなのであまり参考にならないかもしれないですが」
「……なぜ俺が料理が得意だと? 言っていただろうか」
「聞いていたわけではないですが、昨日今日見ていてそうなのかな、と。 間違っていたらすみません」

 昨日と今日、目の届く範囲でいろんな人の手際とかを見たが、橘さんは普段から料理をやっているんだろうか、と思うほど手際が良かった。周りの人たちにも指導していたし。勝手にそうかな、と思っていた。

「まあ、岡峰の前で言うのは少し気後れするが、得意な方だ」
「そんな、気後れなんて。でもあってて良かったです。では食材のストックを参考にしてください、柳さんからの情報なのでとても正確だと思います。 レシピに関しては……釈迦に説法ですよね」
「はは、ありがとう。 だが岡峰の書いてくれたレシピも興味がある。それも貰っても良いか?」
「はい、どうぞ」

 橘さんはありがとう、と言って私が書いたレシピの内容を見ながらふむ、としばらく考えていた。時折なるほど、と言いつつ読まれるとなんだか少し照れくさい。

「面白いな、それにわかりやすい。俺も負けていられないな」
「橘さんの料理、とても楽しみです……!」

 そう言うと橘さんに 見た目よりだいぶ食い気が強いんだな、と笑われてしまった。あ、恥ずかしい。けどおいしいものが好きなので許してください、と心の中で言う。

「料理に関しては岡峰とまた詳しく話がしたいな」
「私もそう思っていました。 是非!」

 今まで料理は先生くらいとしか話をしたことがなかった。だって周りには、まあ中学生だから当然なんだけど、お母さんとか、家の人に任せてるっていう人ばかりだったから。自分で楽しんで料理する料理仲間が欲しいとずっと思っていたところだった。工夫とかアイデアとかを共有したり出来る、そういった人。
 橘さんは また後でな、と言うと食材庫に向かって行った。夕食が楽しみだ。


[ 3/3 ]

[*prev] [next#]
[Back]
[しおりを挟む]




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -