ラベンダー・アイス | ナノ





 朝になると、夜感じた寒さは嘘のようになくなっていた。またあのうだるような暑さだ。
 昨日何時に寝たかは覚えていないが、6時の目覚まし時計の音が鳴る前に起きてしまった。結構早くに寝たのかもしれない。
 まだ日は昇りきっていないが、日焼け対策の準備をしていく。時間がかかるんだもん。

「ほんとは朝も紫外線は出てるから、不用意に外は出たくない、けど」

 そういえば昨日日吉くんに 初めて顔を見たって言われてたっけ。そう思いながらサングラスとフェイスマスクをする。確かにこの見た目は何というか、不審者に見える。遠山くんが真っ黒くて真っ白いオバケと言ったのがわかる気がする。

「日が出てる内はサングラスとか外せないし、これはもう仕方ない」

 ごめんね遠山くん、と心の中で謝っておく。遠山くんは私の顔を見たら 誰や?!とか言いそう。
 そんなことを考えて フフ、と笑いながら準備をしていると、気付けばもう集合時間直前。慌てて外に出て朝食とミーティングをするために食堂に向かうことにした。

***

 食堂までに会った数人におはよう、と挨拶を交わし、集合した。何人かは眠そうな目をこすりながら集まってきている。まずは朝食の準備をし、朝食をとる。田仁志さんの様子を見るとものすごい勢いで平らげていっている。本当に気に入ってくれたんだなぁと実感する。
 そして朝食も終わり、ミーティングが始まる。私も食堂の長椅子に座る。もちろん後ろの方に。

「スケジュールを決めた。これに従って各自行動をしろ」
「結構自由時間が多いな……」

 各自判断しながら家事や雑事をするように指示される。そうか、掃除洗濯もしなきゃいけないんだった。皆テニスの練習もしなきゃいけないのに、大変だ。少しでも手伝いがしたいなあ。

「探索はこのあたりを頼む」

 手塚さんが地図を広げながら説明している。森の中とかだったら私もお手伝いできるんじゃないかな。誰かの探索の時に一緒に連れていってもらおう。

「では今日のミーティングはここまで。解散」

 手塚さんがそう言うと、皆決められた作業をするためかぞろぞろと食堂から出ていく。そうだ、乾さんか柳さんにお願いしたいことがあるんだった。周りを見渡すと柳さんは立海の人たちと話している。あの人達ってちょっと雰囲気が近寄りがたい感じがするんだよね。柳さんは昨日あれだけグイグイ来られたからある意味近寄りがたいけど。
 柳さんは諦めて乾さんを探すと意外とすぐ近くにいた。

「あの、乾さん」
「ん? 昨日の今日に俺に話しかけるとは、意外だったな。どうかしたか」

 自覚あるんだなあ、と思っていると乾さんは 自覚くらいあるよ、と笑った。心読まれた……。

「その、お願いがありまして」
「何かな」
「紙を数枚いただけないかな、と」

 何のために?とノートを開かれながら聞かれる。怖いなあ。

「昨日思ったよりも私の味付けを気に入ってくださった方がいたので、簡単にできそうなものをいくつか書いて昼食準備の方に渡しておこうかと。お昼は私管理小屋から出るなと言われてしまったので」
「なるほど。それは田仁志の事かな。しかし、確かに君が関わった料理の品目は総じて評価が高い。それはいい案かもしれないね」

 乾さんはそう言うと自身のノートを2、3枚まとめて千切り、私に手渡してくれた。

「あっ!えっと、お願いしといてなんですが……よかったんですか?」
「これくらいいいさ。それよりペンはあるかな?」
「あります。ありがとうございます」

 千切られたノートのページを両手で持ち、頭を下げる。

「面白そうな話をしているな」

 他の立海の方との話が終わったのか柳さんも話に入ってきた。というか、この二人かなりの高身長だから威圧感がすごい。

「えっと、今私が乾さんに紙を頂けないかとお願いしていたところです」
「なるほど。俺のノートは縦書きだが、いるだろうか?」
「えっ、良いんですか?」

 そう聞き返すと ああ、と言いながら柳さんも自身のノートを千切った。やった、これでいっぱい書ける。

「そうだ、重ね重ねお願いしてしまって申し訳ないんですが、今日の10時頃は何か予定がありますか?」
「貞治は予定が入っていたな。俺は何もないがどうしたか」
「今ある食材で昼食にできる簡単なメニューを書いておこうと思ったので、昼食係の方に渡してほしいなと思いまして」
「そうか、その時間帯、君は外に出られないんだったな。俺でよければ渡そう」
「ありがとうございます」

 お礼を言うと乾さんが あと5分で9時になるが他には何かあるか、と聞いて(教えて)くれた。気付いてなかったから あ!と大きな声を出してしまった。
 失礼します、と何度か頭を下げて急いで管理小屋に戻ることにした。

***

 外出用の完全防備を取り払って管理小屋の机に座る。
 レシピを色々書いてみる。簡単にできるもの。おいしいもの。どうしたら少しでも簡単においしくできるか……。自分で料理をすることと文字に起こすのって違いすぎる。意外に難しい。
 私の文章構成力の問題だろうか。
 ああ、そう言えば魚釣りもするって言ってた。川や海でとれる魚は何がいるだろう、さばき方も書いておいた方が良いのかな。

「@、Aって感じでナンバリングしたらまだ分かりやすいかな」

 言葉遣いも簡潔に……。よし、何品目か書いておこう。
 試行錯誤しながら書いているとドアからコンコン、とノックの音が聞こえた。あれ、と思い時計を見ると10時ぴったり。もう柳さんが来る時間だったのか。集中してて気付かなかった。

「柳さん、わざわざありがとうございます」

 ドアを開けて よかったらどうぞ、と中に招き入れる。柳さんは少しだけ困った顔をしたがそのまま入って来た。

「普通は不用意に異性を自分の部屋に招かないものだぞ」
「そ、そうなんですか? 外は日差しがあって暑いかと思いまして……」
「……まあ、開けっぱなしで話し込んでしまうと君には紫外線が毒だろう。今はしかたのない状況とはいえ、君が一人暮らしを始めた時は気を付けた方がいい」

 少し世間知らずな所があるようだ、とノートを広げられた。あ、怖い。気を遣われているんだろうけど、怖いものは怖い。
 改めて柳さんを招き入れ これをお願いします、と先ほどレシピを書いた紙を手渡す。無理にこれをするんじゃなくて参考程度に使ってほしいということを伝えると 中を見てもいいか?と聞かれた。まあ中身は気になるよね、と思い どうぞ、と答える。

「なかなか面白いな。これが昼食に出てくるなら楽しみだ」
「ありがとうございます。でも使うか使わないかは」
「わかっている。……しかしこの人数だ。かなり食材を消費する為食材のストックが分からなければ今後こういうことは難しくなってくるな」
「ああ、確かにそうですね」
「良ければ食材のストックを報告しようか」
「えっ、いいんですか?」

 また至れり尽くせりになってしまう。でも柳さんこういうこと得意そうだし、本当にしてくれるのならとても助かる。
 柳さんは 生活の質の向上のためだ、と頷いた。怖い人ではあるけど、なんだかんだ優しいんだな。

「ありがとうございます。じゃあぜひお願いしますね」
「ああ。では昼食が終わった後報告にもう一度ここに立ち寄らせてもらいたいが良いか?」
「はい」

 柳さんは では、と管理小屋から出ていった。
 そういえば昼食は私はどうすればいいんだろう。ちゃんと聞いておけば良かった。
 誰かが運んでくれたりするんだろうか。……また私は誰かに迷惑をかけてしまうことになるのか。

「だーって跡部さんが管理小屋から出るなって言うんだもーん」

 ベッドに飛び込む。思ったより柔らかくて体が沈み込む。

「私も跡部さんの、皆さんの役に立ちたいのに……」

 出来る限りの事はやろうと決めてるのに、私は出来る限りの事を出来ているんだろうか。
 海の幸や山の幸がわんさか採れたら何が作れるかな。夏だしふきのとうとかタラの芽とか採れるかな。海からはアジとか?サバとか?川魚もとれるのかな。でもここは日本かもわからないし全然知ってるものが無かったら……役に立てるかな。
今日から本格的に探索とか採集をするんだから何かしら見つかることを祈る。そうだ、もし貝とか取れたらお味噌汁にしたいなあ。
 そんなことを考えているとコンコン、とまたノックの音が聞こえた。結構考え事してたら時間が経っちゃったみたい。もしくは気付かず寝てしまっていたのか。
 管理小屋の扉を開けるとそこには越前くんがいた。ここに来て初めて目線が合う人と対峙してちょっとびっくりした。越前くんも少しびっくりした顔をしていた。

「越前くん」
「あんたの昼食。持ってきた」
「わざわざありがとう……すごい、果物がある。これはマンゴーとバナナ……」
「なんか河村先輩が果物のなってるところ見つけて来たんだって」

 へええ!と言って越前くんの方を見ると、越前くんの後ろから何かが動いているのが見えた。なんだ?

「こ、コシマエ、はよう戻ろーやあ……」

 あ、この声は遠山くんだ。

「ちょっと、邪魔なんだけど」
「遠山くん」
「わっ、オバケ!……あり?」

 越前くんの後ろをのぞき込むように見ると遠山くんがびくびくと震えながらこちらを見た。でも私の事を見ると拍子抜けしたように首を傾げた。

「真っ黒くて真っ白いオバケやない」
「真っ白なのは変わらないけどね」
「ん〜〜〜髪は白やけど、お前ん顔、うっすーいピンク色や」

 血色はいい方だからそういう見え方もあると思う。思うが……。
 遠山くんが両手を伸ばして私の頬を包み込んだ。同じ目線だ。目が離せない。

「あと口は赤いで。目はうっすい紫やねんな。キラキラしててキレーやなぁ」
「ちょっと、この人困ってんじゃん」
「え?でも何も言わへんで。コシマエも見てみぃや。こいつまつ毛まで真っ白やで」

 そう言って遠山くんが指先でまつ毛をつまもうとするのでびっくりして目を閉じる。今のはちょっと目を突かれそうで怖かった……。

「あんた、やめてほしかったらそう言わなきゃダメじゃん」
「……と、遠山くん、あのちょっと怖い、から、離して……」

 越前くんの言った通りに伝えてみると遠山くんは素直に ごめんな!と言って離れてくれた。……ああ、ドキドキした。

「せや、お前はわいのこと金ちゃんって呼ばへんの?白石とか千歳とかみんなそう呼ぶで?」
「そ、そうなんだ。じゃあ、金ちゃんって呼ぶ、ね」
「……さっきからお前とか、こいつとか、この人年上って知らない?」

 え!と驚かれる。この反応、同い年だと思われてたんだ。 ごめんな、ねーちゃん!とすぐに謝ってくるが全く気にしてなかったので笑って許しておく。
 そうすると金ちゃんは少しだけ真面目そうな目をした。

「ねーちゃん、ほんまキレーやなあ」

 ドキ、とさせられる。な、なんなんだこの子は……!

「アイスみたいや、うまそうやな!」

 ……あれ、この子もわたしを食料かなにかだと思ってる?田仁志さんに続いて2人目のうまそう宣言されてわたしは一体どういう反応をすればいいの。
 悶々としていると金ちゃんのお腹がぐうう、と鳴った。

「あ、せやった。昼飯食べるんやったわ!コシマエ、はよ戻って飯食お!」
「話長引かせてたのあんたじゃん……。じゃ、これ食べてね。食器はまた違う人が取りに来ると思うから」
「え?いいよ、動ける時間になったら自分で洗いに行くから。気を遣ってくれてありがとう」
「別に」

 コシマエ、はよお〜〜!と急かす(いつの間にか小屋から出ていた)金ちゃんに続き越前くんも管理小屋から出て行った。
 嵐のような子たち(主に金ちゃん)だったと思った。


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