失われた焔 | ナノ





「どういうつもりだ。」

それから数分と経たずにユーリはルークから剣を奪い取ることに成功した。いや、成功したにはしたのだがそれは余りにもすんなりいきすぎてユーリは拍子抜けするほどだった。同じ様に剣を扱う者としてはどうかと思い、ユーリはちら、と奪い取った剣に視線を移した。
それは確かに剣、だが、その刃は錆びていてぱっと見ても何かを斬れそうにない。
ふと視線をルークに戻すと目の前にはナイフがあった。

「ーーーっ!!」

間一髪、ユーリはそのナイフをルークから奪った剣で払いのけると剣は思っていた以上に脆かったのかナイフが当たった箇所から二つに割れてしまった。転がったナイフは掌より少し大きめでルークの剣に比べて手入れが行き届いているようだった。

「なるほどな、剣はフェイントか。」
「…剣抜けよ、手加減できねえから。」
「言うようになったな。」

ユーリは挑発とわかっていたがわざとそれに乗ることにした。左手で剣を構えるとルークは両手でダガーナイフを構えた。

「なんだなんだ、色々持ってんだな。」
「怪我せずに帰るなら今だぞ。」
「お前が戻ってくるんなら…なッ!」

ユーリが剣を一振りし蒼破刃を出すと、蒼破刃は狙ったとおりルークへと向かっていった。狙い通りに向かったそれは気付けばそばの建物へ突っ込んでいった。
落ち着いた表情でルークはユーリの顔を見たまま蒼破刃を確認することなく避けたのだ。

「…簡単に避けてくれるな。」
「…やっぱお前帰れよ。」
「何回も言わせるなって。何でそんなに帰りたくないんだ?」
「だってライマの奴らがいるだろ。」
「居ねえけど?」
「は?」
「だから、居ねえって。」

言葉から察するに、どうやらルークはライマ国の面々に会いたくないらしい。それがアッシュなのかティアなのかガイなのかアニスなのかジェイドなのかナタリアなのか、はたまた全員かはわからないが。とにかく今バンエルティア号には彼らはいない。それをつかって何とか説得すればルークは帰ってくるかもしれない。

「あいつらなら国がなかなかお前の捜査をしねえからさせてくるっつって帰ってったぜ。」
「……嘘くせえな。大体あいつ等がそんなことのために一々帰国するかよ。」
「そんな事って…お前、自分のことだろ。」
「だからあいつ等が俺なんかの為に動くわけねえだろ。特にアッシュ。」
「まあ俺も驚いたしな。」
「つーかむしろ俺がいなくなったし国も今じゃ安全だからってアッシュが王を継承するために帰ったって方が信じれるな。」

ルークはそうだそうだ、と一人で納得しているようだった。

「…そういやお前なんで俺を探してたんだよ。」
「そりゃ仲間が消えたら探すのが普通だろ。」
「国から死んだって報せが来なかったのか?」
「来たがあんな図太いお前が死ぬとは思えなくてな。」

ルークは図太い、図太い、とぶつぶつ呟くと確かにな、と口の端を吊り上げた。それが面白くて笑っているのかはユーリにはわからなかったが確実にルークの機嫌が悪くなったのを肌で感じた。
ルークはダガーナイフを構え直し、ユーリに飛びかかった。

「ッ!」

ユーリが知っているルークとはまるで別人のような速さだった。避けることはできたが少しでも目を離せば、ただではすまないだろう。ユーリは次々と繰り出すルークの猛攻を防ぎつつその動きを凝視していた。

「何だよ、ユーリも全然大したこと無いな!」
「そりゃ期待に添えなくて悪かったな!」
「帰るんなら見逃してやっても良いけど!」
「だから…何度も言わせんなって!」

ユーリは無傷の状態でルークを捕らえるのを諦め、ルークの右手を狙い蒼破刃を出した。気絶でもさせないと説得してルークが自分から船に戻ってこさせるというのは困難だと判断したからだ。
ユーリが出した蒼破刃はルークの右手に狙い通りあたり、ルークは顔をしかめ右手に持っていたダガーナイフの一本を落とした。
だがルークは蒼破刃を出した隙をつきユーリの懐へ飛び入り、もう片方のダガーナイフの柄でユーリの腹部を思い切り殴った。

「ーーーッ!!」

ユーリはその痛みに耐えられず膝から崩れ落ちた。こみ上げる吐き気に耐えつつユーリはルークを見上げた。

「だから帰れって再三注意したのに。」
「……っ」
「ま、自分で帰ってくれ。」

ルークはユーリをおいてその場を去ろうとした。
ルークは足下を引っ張られるような感覚に振り向き、下方を確認した。そこにはルークの引きずっているほどの長いマントをがっちりと掴んでいるユーリがいた。

「…待……てよ……」
「お前…いい加減に…」
「お前を…このまま帰すわけにはいかねぇ……んだよ…」

ユーリはそれだけ言うと目を閉じてしまった。ルークが何度か呼びかけても反応しないユーリに少しルークは焦り、倒れているユーリの腕を自らの肩にかけるとよろよろと歩き出した。

[ 6/6 ]

[*prev] [next#]
[Back]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -