「で、これなんかどうだい?」
「…いい加減にしてくれ、俺は買うつもりはねぇって。」
久しぶりに見たルークは確かに後ろ髪だけをバッサリと無造作に切っていた。それでももともと髪の質はいいのか肩につくくらいの短さになってしまっていてもそれは風でさらさらとなびいている。服は最後に着ていた高価そうなものではなく、ゴミ置き場からでも拾ってきたような薄汚れたマントを羽織っていた。ズボンなどサイズがあっておらず裾が地面についてしまっている。
ルークは食材屋と何か話しているようだがそれは食材屋からの一方的なものに見えた。食材屋はどうやらユーリに会わせてやろうと足止めをしているようだ。
「おい、ルーク?」
「!!!」
今にも押し切ってどこかに行ってしまいそうなルークをユーリは呼んだ。瞬間、ルークはその声に驚いたのか、声のした方へ振り返りユーリの姿を確認すると街の出入口へ走り出した。ユーリも条件反射でその後を追った。
先程ユーリはこの人の多さに舌打ちをしていたがこの時ばかりは人の多さに感謝した。
特に人の多い出入口にルークが向かったのが幸いして(ルークにとっては人の多さに邪魔をされて)ルークは意外とあっさり捕まってくれた。捕まってすぐは抵抗していたルークだが、今では力と体格の差に物を言わせたユーリに大人しく捕まったままでいる。
「で、こんなとこで何してたんだ?」
「……。」
「だんまりかよ。」
大人しいのはいいがだんまりは困る、とユーリはとりあえずすぐにバンエルティア号には戻ろうとはせず、そこらにあったベンチで話をしようと試みている。だがルークは一向に一言も発しようとしない。
「お前って誘拐されたんじゃねーの?」
「……。」
「まさか意図的に、ってことはねぇよな?」
「……。」
「おーい、耳ついてんのかよ。」
「……。」
これはどうしたものか、とユーリは溜め息を吐いた。未だに口を開かないルークをジ、と見つめるとルークはそれに気づいたのかユーリを睨んだ。無言で睨むなどルークらしからぬ行動にユーリは先程からどうにも調子を狂わせられている。
以前ならばユーリがルークをからかってはルークはユーリに顔を真っ赤にさせながら怒鳴るのだ。ユーリにとってはなかなかにそれが面白かったりしたのだが、今では何を言ってもルークは喋れません、とでも言うように口を開こうとしない。
「…いひゃひゃひゃひゃ!」
「おーおー、ちゃんと声は出るじゃねーか。」
喋ろうとしないルークにとうとう痺れを切らしたユーリはルークの両頬を抓った。ぐいー、と両側に引っ張るとこれが面白いほど柔らかく、よく延びる。
抵抗するルークにユーリは喋るのなら離す、と条件を言うとルークはおずおずと首を縦に振った。
「よしよし、いい子だ。」
「……っ、ガキ扱いしてんじゃねえよ…」
「はいはい。んで、お前今まで何してたんだ?」
「答える義理はねぇ。」
「…あのなぁ、こっちは手掛かり無い中必死で探したんだぞ?」
「だから何だってんだ。誰もんなこと頼んでねえよ。」
ふんっとそっぽを向くルークにユーリはある意味変わっていなくて一応安心した。
「とにかく俺は戻んねえからっ!」
「は?」
ルークが早口に言うと、ユーリはあまりの早さに呆けているとルークは隙をついて立ち上がり、走り出した。数秒遅れて我に返ったユーリには全力で逃げていったルークの後を追うべく同様に立ち上がり、ルークが走り去った方へ向かっていった。
「(こりゃ、ほんとに誘拐を偽装したって線が強そうだな。)」
追いかけながらユーリはそんなことを思っているとどうやらやはり人の数に行く手を阻まれたらしいルークが見えてきた。ルークはキョロキョロと周りを見渡すと人の少なそうな路地裏に入っていった。
ユーリはそういえばルークの剣が発見されたのも路地裏だったな、と思考を巡らせていると暫く走ったところでルークが目の前に立ちふさがっていた。行き止まりか、と言われれば何のこともないただの通路なのだが、ルークはユーリを待ってましたと言わんばかりに剣を抜いた。
「おいおい、」
「……帰れ。俺はもうお前等の元には行かない。」
「ちょ、落ち着けって、取りあえず話し合おうぜ。」
「いやだ。」
どうしてルークがここまで戻りたがらないのかが不思議だが、ユーリは力業よりも話し合いを提案した。だがそれは簡単に却下された。
大体ルークはいかにも動きづらそうな大きく分厚いマントを被っているのに、身軽なユーリに挑むのは無謀にも程がある。
「勝てると思ってんのか?」
「うるさい。」
ユーリの声は最早届いていない。じ、とルークの目を見ると威嚇しているのだろうが、それには確かに恐怖が入り交じっていた。一体この半年の間に何があったのだろうか。ユーリは取りあえず抜刀はしない方向でルークの動きを封じることだけを考えた。
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