| 現状否定の仮定論 中禅寺さんは自分の能力を疎んでもいるのだろうなと思う。その能力さえなければ軍に目を付けられ研究に駆り出されることも憑き物落としを生業にすることもなく、ただの古本屋の親爺になれたんだろうと。そうしたら関口を救うこともなく学生のうちに関口を喪っていたかもしれないが、現在の状況を考えるとそれがすべての人のためになったのではないか。勿論中禅寺は自分の無力を嘆き悔いることにはなっただろうけど、関口が彼岸に行きかける度溜め息をつくよりはましなのでは。頭の先まで共依存に溺れて身動きとれない今より、戦前に学友が一人死んだ、くらいの思い出を持った一市民である方が。 ものすごい現状否定だ……中禅寺が言霊を操る術を持たなければ、姑獲鳥事件(学生)の後関口は回復しなかっただろうし、徴兵されて十二研に配属されることもなかっただろうし、雑司ヶ谷の事件に関わり悲しい結末をもたらす役目を務めることもなかっただろうから、中禅寺の哀しみは無いのだ…… [＊前] | [次＃] ← |