memo | ナノ



蔭に咲く
2012/02/02 16:12

「可笑しいでしょう?あの人、一番人気の蔭間花魁なんですよ。なのに、外の男─しかも堅物で有名な木場ってお役員に惚れてるらしい。僕にはわからないな、あの人の考えることなんて」
まあ誰にもわからないだろうけど、と少年は薄く笑った。
氷のような笑みである。冷ややかな瞳に潜むのは嫉妬か羨望か、それとも自嘲か。

「榎さんは綺麗な花なんです。それこそ座ってるだけで人が集まるくらい。だからあの人くらいに人気が出ると、閉じ込めなくちゃいけなくなります。逃げられたら困りますしね。それに比べて僕なんかは──

─あの人が薔薇なら、僕は名も無き道端の花、てところでしょうか。どこにでもありそうな平凡な花。だから僕は外に出してもらえるんです。出ないと相手がいないし、そうしたら食い扶持も稼げない。僕は身寄りもないですから、逃げられないってことまで計算されているわけです」

酒が入り、たどたどしい口調は一変、流暢に喋り続ける。

「でもですね、僕の方が榎さんなんかより絶対倖せなんですよ。だって僕は売れないですから、よほど初心な人にしかね。だから僕、実はまだどーていなんです」
童貞だって?相当売れなかったのか、それとも店主に大事にされていたのか。この顔で売れなかったとは思えない。恐らく店主が大切にしているのだろう。
「だからね、童貞を好きな人に捧げられるんです。本当に僕が好きになった人に。…もらってくれますか?僕のはじめてを、ぜんぶ」
「…僕で、いいのかい」
「そうじゃ、ないです。あなたがいい。あなたに、抱いてほしい」
「どうして、僕なんだ」
「ずっと前から、知ってました。ずっと好きでした。優しいから。僕を好きって、いってくれたから」


*所々おかしな所はスルーで



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