バレンタインだから 「京極堂、是…チョコレイトだが、いるかい」 「ん?…リキュールボンボンじゃないか。どうしたんだ?君の薄給じゃあ生活費だけでも赤字だろうに」 「煩瑣いな。余計なお世話だ。榎さんに貰ったのだ」 「君ねぇ。仮にも僕は君の恋人だぜ?今日という日に恋人に貰い物を贈る奴があるかよ。嫌われるぞ」 「なら君は僕を嫌うのか?」 「…っ」 関口、無意識の勝利。 関口はもぞもぞしている。 「関口君、君ね、少しは落ち着けよ。茶は溢すなよ」 溢す(関口君は期待を裏切りません) 「あっ、つ…」 「馬鹿、早く拭け!」 「あ、すまな、」 *濡れたので着替えました* 「これ…ごめん、ぐちゃぐちゃになった…」 関口が包装紙が濡れた包みを差し出す。 京極堂は呆然とそれに手を掛けて固まった。 「…なんだ、僕に飽きたのかと思っていた」 「な、んだよそれ」 はにかむ京極堂。つられて赤面する関口君。 「最近、来てもすぐに帰ってたろ?今日だって、榎さんに会った後で来たみたいだし」 ───君の一番はずっと僕の筈だろう─── 「きょうごく、どう」 京極堂も関口も赤面して押し黙る。 「…あの、最近はずっと、是、君が気に入ってくれるように、って、いいの探してて。榎さんが先だったのはただ、偶々その店に近かったから、で。榎さんがくれたの、高そうだったし───こんな安物より、その方が、いいかと」 「馬鹿を云うなよ」 「すまない…」 謝るなよ、と京極堂は関口の手を引き寄せ軽く口接けた。 「高いものとか、美味いものとか、そういうことを求めているんじゃあない。どうせ君は味音痴で売れない小説家だからね、期待はしていないよ」 「一言多い」 「君が僕、の、た、め、に選んでくれたことが大切なんだ。わかるね?」 「あ、」 じゃあ─── 「こんなもので、良かったら」 「こんななんて謙遜はいいよ、何より嬉しいんだぜ」 ───仮令板チョコでもね。 *120214 *チョコレイトもしくはチョコレヰトという表記が好き |