何、この状況。
スタジアムに入るなり、そう思わざるを得なかった。ちらほら見えるハートの団扇。そわそわしている女子の顔。
「キョウヤさーんっ!」
…耳障りな黄色い声援。私は怖じ気づいた。そりゃあキョウヤさんは強くてかっこいい。こんな状況もおかしくないのかもしれない。
「私…」
付き合ってはいるものの、正直、キョウヤさんと私が釣り合ってないのは分かっていた。だけどちょっと自惚れてて、どれだけの女の子が想いを抱いているかなんて考えていなかった。キョウヤさんは自分の気持ちを出さないし、やっぱり私が一方的に好きなだけかもしれない。駄目だ、この中にいたら不安に潰されそうだ。
「さあ、両選手が位置につきました!」
実況に顔をあげると遠くにキョウヤさんが見えた。キョウヤさんが振り向いて、目が合った、私にフッと笑いかけた、…気がした。私に向けていたのか分からなくなった。でも怖くて知りたくもない。
彼が、遠い。
辺りから響く声援が、苦しくて堪らない。