飛び出して逃げて走って、森に迷い込む。私は馬鹿で、死んでもいいと思っていた。
「何をしている」
大きな木の幹にもたれかかって虚ろな私に声がかかる。誰にも会いたくなくて消えたくて独りになりたくてここへ来たのに、込み上げたのは寂しさだった。思わず泣いた。何もしなくてもぼろぼろそれは頬を濡らした。ただでさえ見せられる顔ではないのにと私は膝に視線を落としたまま。
「どうした?」
言葉は残酷だ。私をここまで追い詰めたのもそれに拍車をかけるのも。易しい言葉は要らない。優しい言葉も胸を刺す。
「お前、名前は?」
近付かないでと泣きながら拒む腕は簡単に褐色の腕に押しのけられて彼は横に腰掛ける。私は長いこと黙っていた。そうすればみんな愛想を尽かして離れていくと知っていた。でもいつまで経っても彼は動かなくてかといって何も言わなくて、それが不思議で私が顔を上げると目が合う。滲んだ視界でも綺麗過ぎて戸惑う。私の口が小さく動いた。彼は繰り返して呼んだ。
「なまえ」
その時初めて自分の名前をなんて綺麗なんだと思った。対象物としての大嫌いな言葉が私を焦がした。今隣で眠る彼は、クリアな視界で見たら私とは別世界の人のように綺麗。そっと呟くように彼の名前を呼べば、回した腕に力が籠もる。
「死ぬな」

それは残酷な言葉だ。私を苦しめて離れなくする。

「死にたくなんかないよ」
痛い痛いと叫ぶ涙が流れた。また彼の顔がぼやける。

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