「バカ!アホ!そんなんだからいつまで経っても弱いんだよ!」
「なあっ…!お前には俺様のすごさが分からないんだよ!」
「分かってたまるか!出てけ!」
「おうおう!出ていってやるよ!」
カツミは、不安そうにと言うよりも呆れたように見ていた井崎くんの横をドシドシと歩いてバンッと思い切り教室のドアを閉めた。前から意見の相違から言い合いになることはよくあった。あったけれど、これほどひどかったことはない。自分のことばっかり並べて、どうして分かってくれないのか。
「…泣くなよな」
今度は困ったような井崎くんに軽く肩を叩かれる。カツミと何か話し合う時にはストッパーとして一緒にいてくれる井崎くんも今回はカツミを抑えることができず。迷惑ばかりかけて申し訳ないばっかりだ。自然に溢れる涙を制服の袖で拭く。
「いつもいつも、ごめんね」
「いいよ、そんなに気にしてないし」
苦笑して返されて、私も少し笑って返す。バーンとドアが開いたと思えばズカズカとカツミが入ってきて、すごい剣幕で何も言わずに私の腕を引っ張った。
「何なの」
「帰るぞ」
「やだ」
「俺が帰りたいから帰んだよ」
ずんずん進んで行く。井崎くんには迷惑かけるだけかけて、置いて帰るとか…感謝と謝罪を込めて振り返り様に小さく手を振った。数分もすれば学校は見えなくなった。
「お前は俺のだろうが」
夕方の空気は冷えていて、落ち着いて言葉が聞けた。
「そうだよバカ」
「天才だバカ」
「バカバカバカバカ…っ」
「んだ…っ、…なんで泣いてんだよ」
カツミの困った顔は井崎くんとは違う。私は胸が締め付けられる思いがするから。いつもただまっすぐで、こんな時もオロオロするばっかりで、私が喜ぶことなんてなんにも分かっちゃいないんだ。それが愛しい。愛しいのにもどかしい。
「キスして」
うっ、とたじろぎ言葉を詰まらせるカツミ。泣いてる彼女が横にいるのに唸ってばかりで何もしないカツミ。私が一番その性格を分かっていて、何を思ってそういう態度になっているかなんて分かっていることなのに。
「…ごめん、私言い過ぎた」
「いや、なんつーか…俺も、悪い」
微妙な空気は明日には直る。私たちはちょっとずつ、変わればいい。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -