甘んじて受けた振りかざした刃先の、あの日の傷がジクリと疼いた。
「ねえ、どうして後ろに下がるの?」
あの時彼を受け止めることが出来るのならと付けた痕が私を彼から離さなかった。ジリジリと寄る揺らめく影に小さい悲鳴で喉が鳴る。愛しくて助けたくて近付いて怖くなって逃げ出した私に、今度は彼から近付いてくる。
「探したよ」
「水地、くん」
ほら、と差し伸べた腕の袖口を捲ると、白い肌に私と同じ一筋の赤い痕。
「…これ、は」
「痛い」
「…」
「痛いよ」
壁に突き当たり背中を預けた私の腕を取って同じ傷をなぞる。
「僕から離れないでよ、ねえ、」
なまえ。耳元で息を吹き掛けるように囁く。血の気が引くのと顔が熱くなる変な感覚。私はこの人と死ぬしか道がないような気がする。私にしたのと同じことを自分にして。彼を助けたい一心で彼しか見えていなかった以前の私みたいな目で、私を捕らえて逃してくれない。
「なまえ、…なまえ」
掻き抱いた彼の手。服の上からでも爪が食い込むのが分かる。低い体温を感じて、愛しさが込み上げる。逃げたって無駄なのだ。

痛み
(それさえ愛しいと思う)




fornanahusiさん

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