ふらと寄った海岸、柄にもなく眺めた空の境にぽつりぽつりと雨が降り出す。彼女が俺の座る近くをさくさくと軋ませる砂の音に顔を上げると深い青だった空は暗く淀んでいた。まるで…
「…竜牙様?」
「なまえか、なんだ」
「どうかしましたか?」
「なにがだ」
「…いえ」
何でも。濡れますよ?と傘を俺に差し掛けた手に手を重ねる。驚いて緩んだ指先から、ごうと唸って風は傘を攫っていった。混沌とした心に体温が伝わる。
「風邪、引きますよ」
「構わん」
「私は嫌です」
「そうか」
「そう、…っわあ!」
下に腕を引くと容易く彼女は倒れ込む。傘は遠くへ消えた。思い出したようにバケツをひっくり返したように降る雨に打たれる。なるべく、と、上に被さるように抱き締めた。打ち付ける雨は痛いが、それ以上に俺を締め付ける彼女が痛かった。
「あの…竜牙様、」
「…大丈夫だ」
「…はい」
小さな声が雨で余計に聞こえないが、はっきりと通じた。このまま彼女を潰してしまえたらと思うこの衝動は、紛れもなく、負の気持ちではないのだから。



スコールforあかいりんごさん

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テーマ「人外ファンタジー」
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