私が目当てにしていた彼は滅多に部屋から出てこないらしい。事実、出てこないのが現状。私は一人廊下で溜め息をつく。バトルは不向きだけど何が何でもと必死にベイに詳しくなってダークネビュラに取り立ててもらったものの、命じられたのは館内清掃である。
「これじゃ、少しも関わることできないよ…」
一通りの仕事を終えて箒を持って片付けへ向かう。どうせなら彼の部屋の前を通ろう。どうせ、出てこないんだし。
「…」
「…何してんの?」
思考が停止した。通りすぎようと思ったがやるせなくて部屋の戸の前に立ち尽くしていた。この中にいるなんて近いのに遠いな、なんてボーっとしていたのが間違いで、この部屋の主も生きているのであって出てきてもおかしくないのだ。目の前に赤い髪。
「…変な奴」
いざ会いたかった人物を前にして完全に固まった私に、彼は喉を鳴らすように笑ってから、フラフラとした足取りで歩いていってしまった。思考回路が作動するまで数秒、どうするか決定するまで数秒。見知ったシャツの裾が曲がり角に消える。掃除係の分際で、なんて、知らない。
「水地…さんっ!」
箒を投げ捨てて追いかける。何を話すかなんて考えてもいないけれど、今を逃す手はない。彼は呼びかけに角からひょこっと頭を覗かせる。胸が高鳴った。



スカート、ひらりfor香夜さん

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