適当にこうやって女の子と遊ぶ方が楽だ。誰が好きだとか、アイツが気になるとか、信じたくない。周りからは好意を感じてるし、嫌じゃない。でも俺はアイツがこっち向いてやくれないかと考えたりしていた。入り口近くで中に入らないのは、試合に興味がないからなんかじゃない。
「なあ、なまえ」
「ん?」
「あー…なんつーか、」
「?…あ、試合始まっちゃう!」
駆け込もうとするなまえに声をかけるも、逃げられた。おい、咄嗟に伸ばした腕は空を切る。何故いつものように言葉が出ない。喜色に富んだ顔が、どうにも耐えられなかった。そして彼女はスタジアムの溢れる群集に姿を隠した。
「どうしたの?」
「チャウシン、行こうよー」
「悪ぃ、ちょいパス」
虚しくなって、一人になってもそれは増すばかりで辺りを見渡す。繁華街の気持ち悪い程の人の山。すれ違いざまに俺を振り返る奴は五万といて、望むものをくれる奴は一人もいない。そんな俺は認めない。じゃあ、何だ。ただアイツも俺を見て笑顔をくれればいいんだ。
「無理だよなあ…」
今頃、他の男に目を奪われているんだろう。知っていてなお、アイツを想う。つまり、苦しい。諦めてスタジアムに入ると、届かない気持ちを込めて、ブレーダーに声を送る人々。馬鹿じゃねえ?すぐに見つけられたアイツを見ていたら、込み上げた感情は愛情。

「好きだ」と伝えたら、「ありがとう」と俺に笑いかけた彼女は、なんて可愛いんだ、なんて。馬鹿なのは誰だ。




千の夜をこえてfor椛さん

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