イヤホンから聴こえるウルサい歌声。元はと言えば貴方が構ってくれないのがいけないのに、今更そうやって。私は彼の腕を押しのける。
「―――」
視界に入っている氷魔の口が動く。音量ガンガンで音楽を聴く私にはなんて言っているのか分からないけど、表情からして、「すみません」とか、そんなところでしょ?

折角久しぶりに帰ってきて会えたというのに、私は話したいことも聞きたいことも沢山あるし、氷魔に触れたいし抱き締めて欲しかった。なのに直ぐに銀河のベイがどうとか言って出て行って。少しくらい、彼女を構ってくれてもいいじゃない。

目を伏せたら、諦めたのか視界の端から彼の足が出て行った。本当は、貴方が疲れてるのも、忙しいのも、私が一番分かってあげなきゃいけなくて、自分が我が儘なんだって気付いてる。旅立つ時も駄々をこねて貴方を困らせたのも覚えてる。

何故だか自然と泣けてきて、閉じた瞼。に、ふと柔らかい感触。
「…っ」
笑う氷魔が目の前にいた。響くベース音で全く他の音が聞こえていなくて、近付いていた彼にも気付かなかったみたいだ。
「―――」
今のは、分かる。私の名を紡ぐ彼の唇。伸びてきた手を拒めずにいたら抱きしめられてて、ああ、私の大好きな氷魔だ、なんて思ったら余計に泣けてきた。イヤホンから騒がしく唸るギターはなんて空気が読めないんだろう。私はイヤホンのコードを引っ張った。耳元で囁く心地よい声がくすぐったい。
「ずっとこうしたかったです」
「…ずっと待ってたのに遅い」
クスクス笑う彼の背中に腕を回した。

「お帰りなさい、氷魔」

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