「…先が思いやられますねえ」
「ひ、ひどいです」
一問にかかる時間が長すぎる。我ながら呆れるくらいだ。どうしてこんなに数学が出来ないのかとうんざりしてしまう。にしても。
「夏休みでもクーラーきいてるんですね」
「暑い中こんな生徒を指導していたんじゃ溶けてしまいますし」
「うわ」
教科書読めば解き方分かるはずですがねえ…なんて言いながらも別の紙に細かく問題の解説を書いてくれる先生。なんだかんだ言っても優しい。馬鹿で、ほとんどストーカーみたいな阿呆な私は、先生の机の未処理の書類の山を見て申し訳なくなった。
「すみません」
「…なんです?気持ち悪い」
申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを込めて折角言ったのに、珍しいものを見るように先生は手を止めた。
「本当、意地が悪いです、先生」
むっとして言う。息をついた先生は目を細めた。
「貴女みたいな生徒を持つのも、楽しみのひとつですのでね」
カリカリとペンが走る音が再開する。角張った手や、特徴のある眼鏡をかけた横顔、私なんかの為にきれいにまとめてくれる文字列に、その目線。
「大道寺先生、」
「なんですか?」
「好きです」
「…知っています」
金属音と、オーライ、野球部の声が外から聞こえた。一応、告白なんだけどな…。先生はペンを休めずにいる。暫く沈黙が続いて、ペンの音だけが響いて。
「まとめてあげました」
数分後に先生が私に紙を渡した。先生の、並んだ大人っぽい字が愛しい。本当に好きなんだよ。
「帰って勉強、頑張ってくださいね」
微笑んだ先生は、きっと答えるつもりはないのだろう。私は「はあい」と返事をして、準備室を後にした。



好きです、先生。

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