「そう!だった!ん!です!か!」
全速力で学校まで走って、髪も乱れたままに数学準備室を思い切り開けた。
「ノックをしないとはまた…」
「それどころじゃないですよ!どういうことですか!」
大道寺先生に向かってグッと握り締めた数学のノートを突き出す。先生は理解したように、ああ、と声を出した。
「ああじゃないです!なんで言ってくれなかったんですか!」
「だから復習をと言ったではないですか」
「違うの!直接、その、」
「ああ、そっちですか」
とりあえず落ち着いたらどうですと椅子を勧められる。渋々座るもこれが興奮せずにいられようか。コップにジュースを注ぐ先生の背中を眺めて、私も一先ず落ち着こうと深呼吸。
「どうぞ」
「…ありがとうございます」
向かい合わせの席に先生が座るのを確認し、コップに口を付けた。
「可愛らしいですね」
「ぶっ!…ごほ、かはっ…」
思わず咽せた。至極楽しそうな顔がこちらを見ている。汚いので拭いてくださいとハンカチを渡される。誰のせいだよ…。半日授業なのか、校舎に生徒は見かけなかった。静まり返った部屋で、気を取り直して一気に飲み干した。
「生徒に手を出すのは問題でしょう?」
「…キスしたくせに」
「なにか?」
「いえ」
「それに私がいつそれを書いたと思っているんですか。少し調べれば分かることでしょう?」
「だって、」
「なまえさん」
「はい?」
「愛しています」
「そういうことをサラッ…と、」
徐々に近づいてきていた先生の唇が、座っている私に降ってきた。腕を首に回し、軽いキスを繰り返した。
「待ちくたびれましたよ全く…」
「でも気付いたのエラいでしょ?」
「別に気付かなければ暫くしたら言うつもりでしたがね」
「なんだ…」
「まあ、焦って飛び込んできた姿は面白かったですよ」
「酷いです、先生」
「…」
「…大道寺、さん」
抱きしめられて顔を埋めた高いスーツは、優しい匂いがした。

愛しています、先生。

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テーマ「人外ファンタジー」
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