Lが過去に愛した女がいた。

わたしの他に。わたし以外に。

それだけでもう苦しいのに

どうして今隣にいるわたしではなく

彼女が一番なのか。

どうしてLは今も彼女を最も強く想っているのか。

その生々しさに目眩がした。

Lはわたしとのセックスのときに

しばしばわたしの顔を見ない。

Lは彼女のことを考えてセックスしている。

彼女とセックスしたがっている。

わたしは気づいてしまった。

プラトニックであることにこだわっているのではなく

むしろ肉の結びつきにより補強される類いの

いわば本物の思いを

Lがその心のうちに秘めている

そのことがわたしの心をひどく掻き乱す。

Lは彼女のことを一番愛している。

それは本物の愛で

わたしに対するのとは違う。

わたしのこともLは大切にしてくれる。

思いやり、優しさ、気遣いをくれる。

でも彼女の存在を想像してみて

わたしは恐ろしさに震えた。

わたしは彼女の身代わりなのでは?

身代わり。

その考えに一度到達したら

いつも不安が脳内をよぎるようになった。

幸福な時も。

愛されている時も。

だってわたしは彼女を越えられない。

身代わりは永遠に身代わりのまま。

そして彼女は永遠に

たとえばそう、16歳のまま。

Lの思い出の中で

彼女は最愛の人として

金の台座に永遠に君臨しつづける。

わたしは彼女をLの思い出の外に連れ出したい。

生きて、変化して、滅びゆく存在として

わたしの目の前に現れたら

Lに彼女を見せて

わたしと見比べてもらえる。

今つながってるわたしのほうがいいって

そう言ってもらえる。

そして彼女の現実を知ったあなたの口から

はっきりと

最愛の人はわたしだと聞いた後でなら

わたしは心迷わずに

ちゃんと

彼女を殺すことができる。

「ユメの未来を私が独占するわけにはいかないですから」

近い別れを匂わすLの言葉は

わたしを想っての言葉かもしれない。

でも雨雲のかかったわたしの心には

全く違う意味に聞こえる。

「離さないで」

わたしが言うと

「ユメのほうから私のもとを離れていくと思いますよ。そうなるはずですし、それがベターです。私は遠くからあなたを想っていることにします。心配はいらないです」

「Lがいないとわたしはだめになる」

「それは本当に私ですか?」Lは言った。「ユメが必要としているのは、本当に私ですか? ユメの本当に欲しいものが、今たまたま私の形を取っているだけかもしれませんよ」

「そんな言い方」

「すみません。本音が出ました。傷つけたいわけではないんです。でも、ユメの未来を共に生きていくことがおそらく私にはできない。探偵ですから。私、早死にしますよ。不本意ですが。私はユメを不幸な未亡人にはしたくない」

「一番愛してる人のところに行くの? わたしのことは切って」

「ユメを一番愛していますよ」Lは言った。「それとも、死が二人を分かつまで、なんて台詞に、満足してくれますか?」

「わからない」

そう言ってわたしは黙った。

Lも黙った。

黙って、そっと抱きしめてくれた。

「今だけです」と言いたげな腕で。

わたしがLを苦しめているのだ。

わたしは思った。本当に殺すべき相手は、

彼女ではなく、

Lでもなく、

他ならぬわたし自身なのではないか、と。



誰のことを一番 愛してる?

※titled by
Yasushi Akimoto







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