本当に変わらない人だ、と思う。 ニアは小さい頃から全然変わってない。 子どものまま、大人になったような人だ。 だから、時々見せる大人っぽさが、特別に際立って感じられる。 子どもの時から知っているこの人と、まさかこんな風になるなんて。 この細い体に、わたしを強引に押し倒すような力があるようには見えない。 物質的な力よりも、もっと圧倒的な何かが、わたしの抵抗を失わせる。 「ユメからもしてくださいよ」 挑戦的な目で、ニアが言う。 どうせ、軽くあしらうんでしょ。 内心臆病な気持ちになりながらも、勇気を出して、わたしが唇を押し付けた。 それが、悲しいことに、 がんばって試したその仕方は思った以上に不器用で、 ニアにくつくつと笑われる結果になった。 ああ、もう。 「笑わないでよ」 「じゃあ、そんな拙いやり方にもっと磨きをかけることです」 そう言ってわたしの手首をつかむ。 わたしは思わず顔をそらして言う。 「ニアはいつのまにこんなことが上手になったの?」 「ちょっと見て学習しただけですよ」 「本当に?」 「私も、男ですから」 「ハウスにいた頃は、全然そんな気配なかった」 「ユメのことを思って、寝たこともありましたよ」 「うそ」 「ユメは、小さい頃から変わりませんね」 ニアに対して思っていたのと同じことを指摘されて、わたしは戸惑う。 「どこが? あそこを出てだいぶ経つよ。人生に疲れた女になったと思うけど」 「昔からそうでしたね」ニアは宙を見つめる。「何か、染み付いた諦めのようなものを感じさせた」 「ニアは、けっこうタフだよね」 「そうでなければ、こんなところにはいないでしょうね」 巨大なビルの一室。機械のうなる音。 「わたし、ニアに必要?」 ニアはあきれながらも、そんなわたしの問いに付き合ってくれる。いつもそうだ。 「それ、何度聞けば納得するんですか」 「色んな言葉で言ってほしいの。ニアの言葉が好きなの」 「しながら、言ってあげますよ」 「やだ」 「好きじゃないんですか?」 「……好き」 職業上、写真を持たないわたしたちは、相手に関する記憶をことのほか大事にしなくてはならない。 わたしたちの幼い日の面影は、互いの中にある。 だから、わたしたちは求め合わないわけにはいかないのだ。 そんなことを、ニアはその夜、夢の中へと入りかけているわたしの耳元に、淡々と、優しく、けれど力強く語りかけてくれたのだった。 今日も思い出の君に会う 2017.9.7 back |