永遠は霧散した。 唇を離した途端、手にしていたはずの永遠はもろく霧散した。 感じられていた温もりは消えた。 ふたりを隔てる空気。 でも、それはふたりをつなぐ空気でもあって。 「磯臭いね」とわたしは言った。 わたしたちの息は、さっき食べた牡蠣とレモンの汁の匂いがしている。 ふたりだけの部屋の中。 Lはおもむろに手を伸ばし、白ワインのグラスを傾けて、口に含み、それからわたしに口づけた。 喉へと流し込まれる淡い色したアルコール。 くらくらするようで、わたしはLにもたれかかった。 愛する人の肩に頭を預けて、並んでソファに座っている。 そこから、わたしは目の前の白い壁にかけられた一枚の絵を眺めた。 黄色い薔薇、薄紫の薔薇、白薔薇。 生きた花束なら枯れてしまうけれど、油絵なら適切な環境を用意してやればそう簡単には劣化しません、と言って先日Lがわたしに贈ってくれた絵。 それは冬のさ中で、木枯らし舞う街のモノクロに飽いていたわたしの目に、とても華やかに映った。 華やかで、どこか憂いを帯びている薔薇の花。 ふと思った。 永遠というものがあるとしても、それは今ここにしかないのではないか。 「抱き締めて」 わたしが言うと、Lは何も言わず強い力でわたしを抱いた。 「離さないで」 もうすぐ冬が終わる。 もうすぐ冬が終わる 2017.9.2 back |