「重いですよ」 「失敬ね! 言うほどじゃないでしょ!」 「どいてください。作業がはかどりません」 「イヤ」 「じゃあ無理矢理にでもどかします」 Lはそう言うと、後ろからもたれ掛かっていたわたしの体を軽々と持ち上げ、えっほえっほと運び始めた。 「すごい。引っ越し屋さんみたい」 「あまりジャマをすると、あなたの部屋を別のビルに引っ越しさせてしまいますよ」 「うそ。自分だって寂しくなるのわかってるんだからLはそんなことしないよ」 「はいそうですね。いい子だからここで待っていてください」と言ってLは隣の部屋のベッドにわたしを下ろした。「望むものがあったら何でも言ってください。準備させます」 「Lといちゃいちゃしたい」 「今日の夜には必ず戻ってきますから、少しだけ我慢して待っていてください」とL。「私だって、我慢しているんですよ」 「そうだね」とわたし。「ねえ知ってた? わたしといるようになってから、Lの目の下のクマが濃くなったの」 「幸せ太りならぬ、幸せクマですね」 「幸せクマ」とわたしはオウム返しした。 「ユメは少し、幸せ太りしましたね」 「やっぱり重かった?」少し気にしてわたしは言った。 「そうでもないです。それに、さわり心地はいいので私は特に問題視しません。むしろうれしい」 「Lのえっち!」 「はい。誰のせいだと思いますか?」 「わたしのせいです!」とわたしは元気よく答えた。 「というわけで、子どもじゃないんですから、きちんとお利口にして待っていてください」と言ってLは小さくキスをくれた。 わたしは言った。「じゃあずっとキスしてもらうポーズで待ってる。いつ帰ってきてもいいように」 「だめです。そんなことさせられません。いっそ眠っていてください。最近夜はよく眠れていないでしょう」 「誰のせいよ」 「私でしょうね」とLは答えた。 「なにもかもLのせいなんだから!」 「はい。光栄です」 「ほんとにもう!」 幸せは誰かの支配力によって嵐の日の苗木のごとくなぎ倒されることだから。屈服する安らぎ。重みを一身に受ける喜び。 わたしはベッドに寝ころんでLを見つめた。Lはわたしのほうに屈み込んで、わたしの上に少し体重をかけた。Lの体はもっとも快く感じる程度の重みでわたしの上に乗った。ああやっぱりまた始まるな、とわたしは思った。わたしたちはまた屈服するのだ。互いを求めようとする欲望の力に。それは突然にやってきて、あっけなく去っていき、爪痕を残していく。まさに嵐のように。 耐えうる最高の重さ 2016.10.6 back |