洪水みたいに溢れてくる気持ちは、谷間を抜け大河をたどって海の波のかなたへと流され、しまいには空と溶け合う。

 水平線のかなたで、天国みたいな気持ちをあなたと分かち合いたい。

 自分のそんな考えにさえ翻弄されてしまうくらい、わたしはLが好きだということだ。

 ねえL、次はどこに行くの? アメリカ? イギリス?

 「天国以外のどこかですよ」

 それって地獄じゃん、ヤダ! とわたしはふざけて笑う。地獄までわたしを連れていく気?

 「さあ。この世だって見る角度によっては地獄みたいなところですからね」

 「わかった。いいよ。じゃあ、Lがわたしを連れ回して連れ回して、もう他に行くところがなくなって、最後に連れていくところが、天国なんだね」

 「まあそう思ってもらえるのは苦しくないですね。ユメたっての希望として頭の片隅に入れておきましょう」

 「片隅じゃなくって、どまんなかに置いといて」とわたしは言った。「わたしを抱くときも、離すときも、いつも天国のことを考えて。わたしたち死ぬときはみんなひとりだよ。そしてお互いバラバラに天国に行くんだから、天国で再会するためのことをようく考えていて」

 「そうですね。最大限の努力をしましょう。で、次行くところは日本ですが、きっと来るなって言っても、ついてくるんでしょう?」

 「もちろん」とわたしは言った。「命ある限り、あなたのもとへと向かうのが、わたしの望みだから!」

 「今度こそ、死ぬかもしれませんよ」とLは身をこちらに屈めて脅かすように言った。

 わたしはぶんぶん首を振って言った。「死んだとしても天国があるから、怖くないもん」

 「あなたは、私がいないと不幸ですね?」

 「そりゃあもう!」とわたしは言った。

 「じゃあ、ついてきてください。でももしも私が死んだら、まずは自分の身の安全は確保して、そして私のためにたくさん泣いてください」

 「泣くよ。きっと泣く。海が溢れるくらい泣く」とわたしは言って、Lの温かいような冷たいようなよくわからない手のひらに、小さく誓いのキスを落とした。


冷たいような温かいような天国のような
2016.10.6






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