秋は長い雨から始まった。 何日もしとしとと霧のような雨が降っていた。 長引く雨のせいか、何とはなしに重苦しい気分でわたしは通りを歩いていた。イングランド特有の気候に、わたしはまだ慣れていなかったのだ。 また少し雨足が強くなったので、わたしは傘をたたんで駆け込むように街角のカフェに入った。イギリスの田舎町ならばどこにでもあるようなカフェだ。小さくて、さえなくて、すこしほこりっぽい。 わたしはコーヒーとともに、しばしの読書時間を楽しもうと思って、文庫本を開いた。 と、そこに一人の奇妙な出で立ちの男が、勢いよく扉を開けて店に入ってきた。ぼさぼさの黒い頭に、なんのしゃれっけもないただの白いTシャツに、ずたぼろのジーンズに、薄汚れたスニーカーという格好。わたしは思わず眉をしかめた。自分の身なりが他人にどんな印象を与えるかについて、無頓着な人間に対する一般的な偏見を、わたしは持っていた。おまけに、わたしは日本人だ。他人の見かけに関して、イギリス人以上に手厳しくならざるをえない面がある。 男は何かぶつぶつ言いながら傘を傘立てに置くと、店主に「ハロー」と挨拶した。意外と礼儀作法についてはそれなりに持ち合わせているらしい。 そうわずかに感心したところで、男はわたしの隣の席に腰掛けた。するとおもむろに、わたしに話しかけてきたのである。 「突然すみませんが」と男は言った。「今お一人ですか? 失礼ですが」 「ええ。一人です」とわたしは言った。 「じつはお手伝いしていただきたいことがあるのです」もそもそと男は言った。「難しいことではありません。数分ほど、雑談してもらえればいいのです」 わたしが首をひねっていると、男は自分のかばんに骨ばった手を入れてがさごそとやると、一つの眼鏡を取り出して装着した。眼鏡をかけると男は別人みたいに見えた。お世辞にも格好いいとは言えないが、まがりなりにも誠実そうには見える。「じつはある人物に追われていまして」 「はい?」と思わずわたしは聞き返していた。「追われている?」 「そうなんです。敵はスナイパーです。どんな相手も逃さない」と彼は言いながらわたしの目の前の席に移動した。通り側に顔を向けて座っている。あえて眼鏡をした姿を見せて他人に紛れようという算段なのだろう。しかしわたしは聞いておかなければならないことがあった。 「どちらが悪役なんですか? あなたが悪い人なら、わたしはあなたを差し出さなくちゃ」とわたしは言った。 「相手は部下です。わたしが仕事を抜け出して遊ぼうとしているので、それを阻みにくるのです」 「あなたは忙しい方なの?」 「まあ、人並みには」と男は言った。 しかし、それは明らかに謙遜の言葉だった。男の目の下にはくっきりと暗いクマが形成されていたし、顔色もよくなかった。「来ました」 「まあ、あなたがつかまろうと、逃げきろうと、わたしにはどうでもいいことだわ」と小声でわたしは言った。 「ひどい人ですね」と彼は外のようすを見ながら言った。「ちなみに、あなたのお名前は?」 「ユメ。それで、あなたは?」 そのとき、ある老紳士がカフェに入店した。あたりを伺うように見渡している。もしかしてわたしの目の前にいるこの男を探しているのは、と思ったときには、もう男は席を立っていた。 「次に会ったときに教えましょう」 そう言い残すと、男はコーヒー代金をテーブルに置いて急ぎ去っていった。その姿を見てはっとした老紳士もまた店を出て男の後を追っていった。 わたしは間の抜けた表情をしていることに気づいて、一つ咳払いをした。やっかいなことに巻き込まれずに済んだので、若干安堵した。しかし男はわたしに奇妙な印象を残した。彼がどんな人物なのか、もう少し知っておかなければならないという不思議な気持ちにさせた。 しかし今や男は去っていた。この町は観光地でもある。彼も単にこの町に休暇を過ごしに来て、たまたまこのカフェに立ち寄ったのかもわからなかった。あまり深追いしないようにしよう、とわたしは思った。なんにせよ、ただの通りすがりの人物にすぎないのだから。 その男のことを忘れてしばらく経った。わたしは相変わらずカフェ通いを続けていた。友達も少なく大した趣味もないわたしにとって、カフェで読書して過ごす朝の時間は貴重であり贅沢であった。ある朝いつも通りカフェに行くために歩いていると、道中でしとしと雨が大雨に変わった。わたしはようやくカフェに駆け込むと、タオルで軽く体を拭いた。体は雨で冷えていた。秋なのだ。折りたたみ傘をたたむと、雨水の冷たさを感じた。 わたしはぼんやりと大雨の降り出した外を眺めた。 そこに、にわかには信じがたい人影が現れた。季節はずれであまりにもラフな服装と、大きく猫背になったその姿勢は、明らかに見たことのある人物のそれだった。傘も差さず、びしょぬれになりながら彼はやっと店の前に来て雨宿りをしていた。 わたしは思わず店を飛び出していた。片手には傘を持っていた。それからそっと彼の前に立った。彼は顔を上げると、わたしの顔を見た。彼は驚いていた。 「お久しぶり」とわたしは言った。吐く息が白い。コートを着て出てくるのだったと後悔したが、もう遅い。 「あなたは……」 わたしは長くて透明で簡素な傘を彼に差し出した。「二本持ってるから」 彼はわたしとわたしの手に持った傘とを交互に眺めた。 わたしは黙ったまま彼に傘を押しつけた。 彼は驚きながらも受け取ると、「これはどうもありがとうございます」と言った。 彼が傘を受け取ったのでわたしは満足してきびすをめぐらせた。わたしの後ろ姿に彼は声をかけた。 「必ずお返しします」 彼はそう言った。店に戻る間際に振り返ると、彼の姿はすでに通りをゆく人の流れの中に消えていた。 やがて秋雨の時期は終わりに近づいていった。 わたしは来る日も来る日もカフェで朝を過ごした。 往来で会って以来、何日も待つともなく待ったが、例の傘を貸した男は現れなかった。 ある日、いつも通り朝の時間を過ごそうと店に入るやいなや、店員に声をかけられた。手に透明な傘を持っていた。わたしが男に貸したのと同じ傘を差し出しながら言うには、 「傘を返す、大変助かったとのことです」という簡潔さだった。「ぼさぼさの黒髪で、猫背の男性です」 「どこか遠くに行くとか、そういうことは言っていませんでしたか?」とわたしは聞いてみた。 「はあ。特になにも。常連さんではありませんし……。それっきりです」 わたしはひそかな落胆を禁じえなかった。わたしは店員に礼を言うと、ぼんやりと雨の降る窓の外を眺めた。文庫本は閉じたままで、気まぐれに少し開いてはみたが読書はちっともはかどらなかった。 それからいくつもの朝をわたしはそこで過ごした。ときには一人でいるのをいいことに他の客に声をかけられることもあった。わたしは適当に世間話をしたり、誰とも話さなければたいていは本を読んで過ごした。もちろん店に行かない日もあった。特定の人間を、期待しすぎることなく長く待つというのは、たいへんな根気を要するものだ。 そんなふうにして何日かが経った。 風が一つの季節の終わりを告げていた。一年でもっとも寒い時期に入って、イングランドの空はますます重いものになっていた。 暗い朝だった。街灯のともる往来を、通勤する人たちが足早に歩いていく。 わたしは慣れた手つきで戸を引いて店に入った。椅子に腰を下ろすと、外のようすに目をやった。相変わらず陰鬱な天気だ。 そう思いながら見ていると、ときどき白い粉のような優しい固まりが空から降ってき出したのだった。雪だった。 初雪に軽い感動を覚えながら、わたしは雪の降ってくる景色をそれとなく眺めた。秋は終わりを告げ、長い冬が始まろうとしているのだ。 そこに一人の来客があった。わたしは不本意にも喜びを感じずにはいられなかった。彼だった。 彼はわたしと目が合うと、軽く会釈してこちらに来た。 「奇遇ですね」と彼は言った。「今日はいつもよりも早く出たんですが、久しぶりにあなたに会えるとは」 「あんな伝言を残しておいて現れないなんて、ずいぶんじゃない」とわたしは言った。といっても、うらめしそうな顔には喜びが滲んでいたのだろう、彼は不意な出会いに戸惑ったようにボリボリと頭を掻いた。 「まさかもう一度あなたに会えるとは思いませんでした」と彼は言った。「あれから何度か店を訪れたんですが」 「入れ違ったのかしら」とわたしは言った。「来てたの? 本当に?」 「あなたは朝、来てたんですね。こちらは職業柄、休憩時間が不規則なもので、それでお会いできなかったんでしょう」 「でも、また会えることがこんなに喜ばしいなんて、これまでは思いもしなかった」 「そうですか。わたしはあなたにまたお会いしたいと思っていたんですが、どうやら片思いだったようですね」 「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」 「竜崎と呼んでください」と彼は言った。頭をぼりぼりと掻いている。 「竜崎? あなたやっぱりもしかして日本人?」会釈した彼の仕草を思い出してわたしは言った。 「日本人かと言われればそうですし、違うだろうと言われれば違います。育ちは主にイギリスです」 「なんだかフクザツそうね?」 「そうでもないです。日本人ということでかまいません。あなたは日本の人ですか?」 「わたしは日本育ちなの。でも、どっちだっていいよね」 「そうですね。でも、あなたがどんなふうに子供時代を過ごしたかは、少しは聞いてみたい気もします」 「そう。でも、あなたの名前、わたしまだ聞いてない。本当は竜崎って言わないんでしょう」とわたしは言った。 「鋭いですね。当たりです」 「本当の名前を教えられない事情でもあるのね?」 「ここじゃなんですから、店に入りましょう」彼は言った。「わたしはLとも名乗っています。こちらのほうが生身のわたしの名前と言えばそうかもしれません。Lと呼んでくれてもかまいません。ただし、移動中に限ります。移動中以外は、竜崎の方でお願いします」 店のドアを開けてくれる彼の動作はどこかぎこちなくて、こういう常識的なルールに、少なくとも実体験上は疎いことがよくわかった。 「なんだか細かい制約が多いのね」わたしは言った。「Lね。どこかで聞いたことあるお名前。きっと呼ばない方がいいのね。竜崎って呼ぶことにするわ」 「ありがとうございます」と竜崎は言った。 「きっとカフェにもいないほうがいいのよね?」 「まあ正直に言うなら、そのとおりです」 「じゃあ、少し歩きましょ」とわたしは言った。料金をテーブルに置いて荷物をまとめると、わたしたちは外に出た。暗い空から白い雪の花が次々に降ってくる。街灯に照らされてきれいだ。 「こんなに素敵な朝に再会できたのも、なにかの縁ですね」 「まあそうかもしれない。わたしは縁とか運命って、あんまり信じるほうじゃないんだけど」とわたしは言った。「今がよければ、それで万事OKと思っちゃう」 「未来のことは考えませんか?」 「考えなくはないけど、未来なんて努力しなくても時間が経つだけですぐに今に変わるんだから、今を楽しむことの積み重ねだと考えるの。どう? ばかばかしい? 名探偵さん」 竜崎はさして驚きもせずに言った。「ばれてましたか」 「だってあまりにも有名よ。世界の名探偵。最後の切り札。イギリスに住んでいる人なら、一度は聞いたことのある名前でしょ、Lって」 「偽物かもしれないとは思わないんですか?」 わたしは少し考えてから言った。「思わないわ。Lってもっとかっこいいのを想像する人が多いのかもしれないけど、わたしにはあなたくらい不格好な人のほうが、しっくり来る気がするの」 「変ですね」 「なにが?」 「わたしのことを面と向かって格好悪いと言ったのは、あなたが初めてですよ」 「かっこわるいとは言ってない。不格好って言っただけでしょ」 「ふつうは失礼だと思って指摘するのを控えるんですけれどね……」 「‘指摘’ね。自覚あるみたいで、なにより」 「言ってくれますね。私、これでもモテるんですよ」 「そう?」とわたしは言った。 「そんなことより、雪がきれいですね」とLは言った。 「きれいね。初雪」 「初雪ですね」 「あなたその格好で寒くないの?」 「寒いです。でもまあ、せっかくの雪ですから。楽しみたいと思いまして」 Lは爪を噛んでいた。爪の色もどこか青みがかっている。 「ちょっと待ってて」 わたしはそう言うと、ほうけるLを置いて近くにあった服飾店に入った。しばらくして出てきたときには、わたしは分厚い紳士用のコートを腕に抱えていた。 「悪いですよ。お金は払わせてください」とLは言った。 「そんなことより、早く着てみて」 「あたたかいです」とコートを羽織ったLは言った。「助けてもらってばかりです。何かお礼をしなくては」 「いいのに」 「今、時間ありますか?」 わたしは腕時計を見て言った。「少しなら」 「ついてきてください」 そう言ってLは方向転換すると、町外れのほうへと歩いていった。 着いたのは、「ワイミーズハウス」という場所だった。 Lが玄関を開けてこの施設に入ると、遊んでいた子どもたちが一斉に彼のもとへと駆け寄ってきた。 「おい竜崎、今日はなんのゲームをしてくれるんだ?」 「忙しいんです。残念ながら今日はあなたたちにかまっていられる時間はありません」 「ちぇーっ。なんだよ」 「さあ、ここを通してください」 「ねえ、あなたはどこからきたの?」 わたしは小さい女の子からそう話しかけられてなんと答えるべきか迷ってしまった。Lに迷惑をかけない答えを返さなければならない。 しかしそんな心配はいらなかった。Lは問答無用で「ほら、こっちです」と言ってわたしを引っ張っていった。 「わたし、どこに通されるの?」とわたしはLに聞いてみた。 「お察しの通りそんなに仰々しいところじゃないですから、楽にしてもらってかまいません」 「引っ張ってつれていかれているのに、楽にするもなにもないわよ」 「甘いものは好きですか」 「え?」 「甘いものは好きですか」 「はい。好きだけど……」 「マット」とLはそばにいた男の子に声をかけた。「台所はどっちでしたっけ?」 「そこを曲がって左だよ、竜崎。盗み食いか」 「ああそうでしたね。ありがとうございます。盗み食いとは人聞きが悪いですね。しかし、その通りです」 Lはそう言うと、マットという少年と別れて台所へとわたしの手を引いて行った。 台所は巨大だった。鍋も流しも冷蔵庫もなにもかもが大きい。そばには食堂らしき部屋が隣接していた。Lは着くなりわたしを食堂の奥に配置されたソファに座らせると、巨大な冷蔵庫のなかを探り、ホールケーキを持ってきた。 「どれくらい食べますか?」包丁でケーキを切り分けながらLは言った。「私はあなたが残した分をぜんぶ食べます」 「少しだけいただくわ」遠慮気味にわたしは言った。「それより、どうしてここに?」 「ここは私がよく出入りしている孤児院です。何かと私を優遇してくれるもので」とLは言った。 ケーキはおいしかった。相当腕のいいシェフがつくったに違いない。どこか有名店で買ったものではないか、とわたしは思った。たぶん、来客用だったのだろう。ひょっとするともともと他ならぬLのために特別に用意されたものだったのかもしれない。 わたしが一切れのケーキを食べる間に、Lは残ったホールケーキをすべてたいらげてしまった。それは見ているだけで胸焼けしそうなくらいの食べっぷりだった。 「どうでしたか?」とLはわたしに聞いた。 「おいしくいただいたわ」とわたしは言った。 「じゃあ次は、塔に上りましょう」とLは言った。 Lは再びわたしの手を引いて歩きだした。途中、ある部屋をのぞいて、そこにいたある男の子に「ニア、もしロジャーに会ったら私が来ている旨を伝えておいてくれませんか」と言った。「もし会ったら」と男の子は返事した。そして何気なさそうに言った。「竜崎、よい滞在を」白いパジャマを着ていて、どことなく不思議な雰囲気を持つ子だった。Lに似ているところがある。もしかしてLの親類だろうか、とわたしはあらぬ疑問を抱いて、L本人に聞いてみた。 「あなた、結婚しているの?」 「突然どうしたんですか。気になりますか」 「してないならいいのよ。ただ、あなたに子どもがいたら、あんな感じの子なのかな、と思って」 「あいにく、異性は苦手なんです」 「わたしだって異性だわ」 「はい。そうですね」とひょうひょうとして言うL。失礼しちゃう。 「ここをのぼったところから見る景色はなかなかのものです」 塔は施設の敷地内にあった。階段を使って上ると、町の様子が見渡せた。まだ雪は降り続けている。町並みは古く、格調高い。街灯のあかりがきれいに並んでいて、今が朝か夕かわからなくなるような、幻想的な景色だった。 「これで少しはお返しができたでしょうか」とLは言った。 「とっても素敵な場所」とわたしは言った。「好きになっちゃった」 「よければまたつれてきますよ」とLは言った。 「ううん。いいの」とわたしは言った。「今日、満足したから」 Lはわたしの顔を見た。なにを考えているのかわからない顔つきだった。 「そうですか」とLは言った。「こちらこそ、いい思い出になりました」 「あなた、ずっとこの町にいられる身じゃないんでしょう?」 「はい。移動は不定期にしなければなりません」 「この町はあなたにとって大切な場所?」 「いくらか思い入れはありますが、離れていても心は痛みません」とLは言った。 わたしは黙ってうなずいた。それから、「さみしくない?」とわたしは聞いた。 「さみしいと感じるひまがあったら、一人で遊んでいたいと思う性分なもので」 「そう」 「なんだかすみません」とLは言った。「わたしはよく、一緒にいる人を孤独にさせてしまうようです」 「考え過ぎよ」とわたしは言った。 「いつか、今日の思い出は、わたしの胸を温めてくれると思います」そう言うLの表情は前髪に隠れて見えない。 「わたしもそう思う」とわたしは言った。「ねえ見て。雪のふりがまた強くなった」 下では子どもたちが楽しそうに駆け回っている。はしゃぐ声がここまで聞こえる。 「にぎやかですね」 「そうね」わたしは言った。「そろそろ戻らなくちゃ」 「送りますよ」 「いいの。ここで。ひとりで帰れるわ」 「おい、竜崎、そこでなにしてるんだよ」 金髪のおかっぱの子が下からLに声をかけていた。Lは頭を掻いている。そしてわたしを振り返り見て言った。「私はもう少しここにいます」 「そう」わたしは言った。「今日はありがとう。さよなら」 「いずれまたお目にかかる日があることを願います」とLは言った。 わたしは施設を出て、通りを歩いていった。鐘の音がした。振り返ると、さっきまでいた施設の塔がこちらを見下ろしていた。いつかまた会えるだろうか。雪はしんしんと町中に降っていた。すでに冬が始まっていた。わたしは冷えた手をこすり合わせながら、往来を急いだ。 あれから何年も経つけれど、長い雨も白い雪も、今も変わらずに季節が来るとこの町を覆い尽くすように降り始める。それはまるで一つの約束のようなのだった。 長い雨雪 2016.9.25 back |