不穏な空気が流れていた。外ではかみなり雲がゴロゴロと、大地に響くほどのおそろしい音を立てて鳴っている。 ハウスじゅうの子どもたちが、ホールに集まって、ふるえながら互いに身を寄せ合っていた。 年少の者は泣いているし、年長の者は青い顔をして押し黙っている。みなおびえているのだ。 ユメは隣にいるニアの服のそでをひっぱってつかんでいた。ニアはつかまれたまま、いつになく背すじをのばして事態を見守っている。 そのとき、ピカッと一瞬光ったと思った直後、激しい轟音とともに地響きが伝わって、子どもたちのうち何人かがびくりと飛び上がった。 それを合図に嵐はひときわ厳しいものとなった。ピークを迎えたのだ。 子どもたちはみながみな、あたかも地球最後の日が来たかのように、身を固くしておびえていた。しかし一方でまた彼らは、自分たちの身の安全を信じてもいた。神かあるいは神のような何かによる裁きなど本の中の物語でしかない、裁きの時など自分たちの身にはけっして訪れはしないのだと、あの立派なLに教わったとおりのことを信じて、自分たちを必死で勇気づけていた。 しかし今や小さな「最後の審判」は終わった。しだいに分厚い雲の切れ目から、つい先刻まで隠れていた太陽が姿を現して、ワイミーズハウスの上に光を注ぎ、辺りを明るくし、部屋の中をも照らし出した。 おそるおそる窓の外を見に行った子どもが、何かを見つけてふりむき言った。 「虹だ!」 その一言に興味を引かれた子どもたちの何人かが駆けだしたかと思うと、すぐに全員がそれに続いた。 ニアはユメの手を引いて外に出た。そして見上げた。今までに見たことがないくらい鮮やかで美しいアーチが空に大きく架かっていた。 ぴょんぴょん飛びはねる者、駆け回る者、見とれて立ち尽くす者、思い思いの反応を示す子どもたちがみな虹の下にいた。 そのときユメは自分が嵐のおそろしさのために泣いていたことを思い出した。ぼうっとそばでニアの顔を見ていたら、ニアはそれに気づいて自分の服のそでで涙とはなをぬぐってくれた。 ユメはぬぐってもらってから一呼吸おいて、改めて空を見上げた。夢か幻のようにくっきりと鮮明な虹が、無言で祝福していた。自然の美しさと、そして今日この日も自分たちの生きていることとを。 虹に変わる 2016.9.19 back |