「端から端まで甘いケーキになって、真夜中にあなたに食べられちゃいたいなぁ」

 ふとした思いつきを我ながらいいアイディア、なんていううぬぼれから口にしてそうつぶやいたら、何事かといったふうにLがこちらを振り向いた。

 よし、興味は引けたぞ。チャンスと思いながら、わたしは次の手を考えた。仕事中(ゲーム中)のLの気を引けるなんて、そうそうない機会なのだ!

 「ねえL、ところでそのケーキおいしい?」

 「おいしいですよ。食べますか?」

 「うん、もらう。」

 言われる前にあーんと口を開けたら、Lは黙ってフォークを置いたままわたしの顔をじっと見つめだした。

 黒いクマのある両の目に戸惑った。縁取られた黒い瞳の中には大きく口を開けて待つわたしがいる。

 なに?

 そう聞こうとしたら、とたんにLはフォークでケーキを大きくすくい取って、みずからほおばり、ほおばったまま立ち上がった。

 ケーキをほおばったLがこちらに来た、と思ったらそのときすでにガッと肩をつかまれていて、あっと言うが早いが、大きくあけた口でわたしの口は包まれた。

 あれよあれよと言う間に、口移しは完了していた。

 「甘いでしょう」

 「うんあまい。なにかまぶした?」わたしは顔を歪めながら言った。

 「はい。コーヒーシュガーならぬサッカリンをサラサラとふりかけてみました」

 「どうりで!」

 「おいしくないですか?」とLは聞いてきた。「わたしの口から与えられたということを、加味してもいいですよ」

 「Lの変態」

 「はい。褒め言葉です」

 「罰として、今日は一晩中わたしを抱いてぐっすりと寝ること!」

 わたしがそう言い渡すと、Lは苦々しげな顔をした。

 「それは大変な罰ですね。わたしには無理というものです」

 そう言ってLは残りのケーキをほおばると、さっき以上に強い勢いでわたしに口移しで同じものを食べさせた。

 「今日は真夜中まで、甘い思いをしてもらいますよ」

 「ケーキは全部食べたね。わたしは? どこまで食べる?」

 「言わずもがな、全部です」

 わたしはぺろりと唇の端を舐めた。甘い味がした。これはわたしにとって、何を食べようとも、Lの味のあかし。今夜はきっと、わたしは全身甘い味がする。だってL、あなたに甘いものを食べさせられたばかりだから!


甘いケーキになって
2016.9.13






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