世界は冷えだして、また新たな雪が街を覆った。しんとして音もなく降り積もる雪の中、買い出しを終えたわたしははやる気持ちで街路を足早に歩いた。

 季節の境の変わりやすい気候にやられ、わたしはのどを痛めていた。声が出せないくらいにまでのどの奥が腫れてしまっている。

 自室にコートを置いた後でモニタールームに入った。二アはこちらに背を向けたまま玩具をもてあそんでいる。その前では、ディスプレイが冷徹な光を放ちながら薄暗い部屋のなかでニアの姿を照らし出している。

 わたしは凍てつく指先をすりあわせながらニアの背後にそっと近づいた。

 気づいているであろうニアはしかし何も言わない。ただディスプレイと向かい合っている。

 わたしはひりひりするのどに手を当てながら、音のない声で吐息混じりにニア、と呼んだ。

 ニアの返事はない。

 今度はもう少し近づいて、少し強めに発音して彼を呼んだ。

 やはり返事はない。

 機械のノイズが左右前後からやけに無情におそい来る。

 わたしは泣きたいような気持ちで、ニアの背に手を伸ばした。とたんに、モニターに映っているのを見たのだろう、ニアが振り向いて、わたしの手を引き、腕の中に抱き寄せた。

 少し苦しいくらいだった。

 わたしはニアを見つめ返した。ニアの暗い瞳の中をのぞき込んでいると、それだけでもう身震いがするようだった。

 わたしは幸福なのか。わたしたちは、幸福か?

 ニア、と呼ぶと同時にわたしはニアに自分の体を押し当てた。

 聞こえます、ユメの胸の音が。

 ふいにそう言われてわたしは体を固くした。

 ふとニアが顔を上げたときも、わたしはどうしていいのかわからずかしこまった表情をしていた。それを見てニアは軽く唇の端を上げてから、再び腕を伸ばして抱いてくれた。ニアは、声を立てて笑った。

 ふるえてますよ、という指摘とともに指をからめ取られて、わたしの顔はますます熱くなった。ニアのばか、とかすれ声でつぶやくと、どっちが、とニアは笑った。

 部屋中を取り囲む機械のノイズの音は、かすかな熱を発しながら、心地よいメロディーのような柔らかなうねりを聴かせた。外ではしんしんと淡雪が舞い散りながら降っている。まだ冷たい唇に落ちてくるニアの口づけは優しかった。ああもう冬の最初の日はとうに過ぎていたんだっけな、とふと思った。

 今降っている雪がわたしの心に降り積もっても、外ほど静かな世界をつくらないのは、ふたりの間に流れる温かなノイズのせいだ、とわたしは信じることができたのである。


煌めくノイズ
2016.9.9






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